盛岡タイムス Web News 2013年  4月 2日 (火)

       

■  〈わが歳時記─4月) 高橋爾郎

 卯月(うづき)4月、長い三寒四温の日々だったが、心弾む春がやってきた。5日は天地万物清新の気に満ち草木萌(も)え立つ清明(せいめい)、20日は春雨に田畑うるおい、あらゆる穀物成長を促す穀雨(こくう)だ。朝まだ芽吹かぬ草原から、かん高い雉子(キジ)の声が聞こえる。庭にはいち早く、福寿草、フキタンポポやクロッカスが咲きはじめた。まもなく辛夷(コブシ)、連翹(レンギョウ)、木蓮(モクレン)、梅、桜と続く。今年は桜前線が平年より早いペースで北上しているという。仙台付近は4月10日ごろ、盛岡は20日ごろ、北海道南部は30日ごろらしい。年々歳々花相似たりだが、今年も待たれる桜の花である。

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  朝、書棚の高い所から広辞苑を取り出そうとして手元がすべって右足に落としてしまった。痛さに思わず悲鳴を上げる。みるみる足の甲が紫色に腫れてきた。きょうで10日目、やっと痛みが薄らいだが、まだ足を引きずっている。家族はみな電子辞書を持っている。ぼくは頑固に拒否をしてきたが、もうそろそろ観念をして切り替えなければと思う。辞典を落として打撲とは笑い話だと思う。苦笑する外はない。

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  ぼくらの短歌の仲間には米寿、卒寿を迎えまだ若い人に負けないような、みずみずしい作品を詠みあげている人がいる。この人たちは皆神様仏様を敬い祈り、自然の恩寵(おんちょう)を敬虔(けいけん)に受け止め、一日一日を感謝して大切に生きていると語る。そして何事にも前向きだ。だから顔色も良く、表情が明るく笑顔で、言葉もハキハキしている。

  短歌も言葉を飾ったり、きれいに作ったり、人のまねをしたりしない。自分なりに、自分の感じたことを、自分の言葉で率直に歌いあげている。それが生きがいだと言う。ぼくなど、まだ鼻たれ小僧の部類だ。一緒に勉強していると、この人たちのオーラを頂けるのがうれしい。その人たちの作品を紹介する。

  盲目のピアニストが弾く指先はまるで鍵盤見ゆるが如し
  札幌の羊ケ丘の教会で誓った二人に幸いあれよ
                                松原八壽子

  誘われて米壽過ぎての水中ウオークたるみし体は水着に弾む
  六人の孫の最後の婚終えぬ想い重ねて留め袖たたむ
                               村井美津子

  秋日和娘を誘いて競馬場未知の世界に野心がさわぐ
  雀子のあしあとしるき雪の庭樹の影青し春はもう其処
                               板橋 慶子

  伸びし日が春運びくる雪庭に満艦飾のシャツひるがえる
  腰痛のいつかうすれて春近し背(せな)いっぱいに深呼吸する
                               石川 晴子

  香も高く鉢の白梅咲きにけり夫九十六歳の今日は生まれし日
  ページめくるわが指先のエナメルが他人の顔して光りておりぬ
                               小野 昌子

                          (歌誌編集者)


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