盛岡タイムス Web News 2013年  4月 9日 (火)

       

■  〈あなたへの手紙〉 「肺」蟹沢小陽子

 

おぎゃあと声を上げた瞬間に
一息吸う空気の一部は
肺の奥底へ一生残り続けるという
死ぬまで空気を吸い続ける身体は
死ぬまで自分の故郷を偽ることなく
肺に刻印するのだという
光化学スモッグにまみれていても
甘い森の光に包まれていても
肺は自分の生まれた街の
当時の空気を掴んだまま
一つの身体を支えていく

ふと足が止まったとき
ひとつ大きなため息をつき
肺の中を故郷の空気で満たす
身体の中心を故郷で満たすと
気持ちは落ち着いていく
背中を押すのは生まれたときの
故郷の空気
当時の自分の存在を喜んでくれた
人たちの笑顔



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