盛岡タイムス Web News 2013年  4月 11日 (木)

       

■  〈上海〜NY〜台湾ひと筆書き〉番外編1 沢村澄子 足立区の神様

 台湾から羽田に戻り、しかし盛岡には帰らず。知人宅に泊めてもらって、足立区での伝統工芸展に備えた。

  区は震災以降、支援を継続してくれており、わたしはそこで作品を展示しながら被災地から出展されるマフラーや食器などを売る。

  年2回のこの催しに通ううち、足立区の職人さんたちと仲良くなった。70歳を過ぎた大先輩が多いけれど、みな粋な江戸っ子だ。歯切れのいいしゃべりで、3秒と空けずに笑わせてくれる。

  江戸刺繍(ししゅう)や仏壇、欄間、銀細工、三味線、木工、染め…などなど。ここでの展示は区の伝統工芸を広く区民に知ってもらうことを主眼としているようだが、その大事な売り場の一部を東北3県からの出展のために割いてくれ、そして、来場者のみならず、職人さんや区の職員さんたち自らが率先して被災地のわたしたちのものを買ってくれる。

  会場を歩いてたら、ベレー帽をかぶったおじさんに「アンタ、あんなもの並べても売れないだろ?」と声を掛けられた。岩手の伝統工芸、表装の仕事を絶やさぬようにと願うのだけれど、掛け軸みたいな高価なものは確かに売れづらい。「仏壇や着物なんかも売れないな。でもサ、ここには出会いがあるのよ。だから、やめられないね。数年に1回ひょこって神様みたいなお客が現れてサ、『あれ』って指差して何万もするのをポンと買ってくれるの。驚くよ」。横から木工のおじさんも口を挟む。「そうそう。いつもカアちゃんに『また行くのかい?どうせ売れないんだろ!』とか言われちゃってサ。なのに、カアちゃん、日が迫ってくるとつり銭そろえて準備してんだよ。で、またきょうも来ちゃったね」

  まな板を削る実演を見に行くと、そこに仏像みたいな奥さんが座っていた。色白でぷっくりした顔つきが神々しく、また、おっかないな〜とも思われて、こんな正しいオカミサンがいる家では、ご主人は悪いことはできないような気がした。

  「立派な奥さんですね」なんて、まな板とは関係のない感想を言うと、ご主人が削っていた手を止めて不思議そうにわたしを見た。  

  それから自分の売り場に戻ってマフラーを売っていたら、いつの間にか、さっきのまな板のおじさんが目の前に立ってる。「アンタ、さっきウチのカミサンのこと立派だって言っただろ。本人に言ってやってよ」。え、え、え〜っ。さらに突然「オレについてこれるのはアイツしかいねぇ! 親の代からの借金もアイツのおかげで返せたの」あまりの唐突。驚き過ぎて目頭が熱くなる。「病院の売店にいるのを、親の送り迎えするうちに見つけたの。本当によくやってくれたの。アイツのおかげなの。来年結婚40周年でね、だから買ってやりたいんだよ。ほら、あのルビーとかいうのあるだろ」

  いやぁ…参った。「奥さんに、じかに言ってあげて」と言いたくても、どうしても言葉が出なかった。

  けれど、この奥さんだけではなかったでしょう。悪態ついて背中を押して、つり銭数えてわらじを履かせる。職人のご主人も立派なら、オカミサンたちも立派。

  だから、思うのだけれど、数年に一度現れるという神様、神様のようなお客さまというのは、実は、このご主人、オカミサンたちの化身ではないかしら。来る日も来る日も実直にその仕事を積み重ね、どんなに苦しくてもその正しさを守る。それがある日、姿になって、ついにわたしたちは、自分が日々やり重ねてきたことに出会うのではないかしら。
(盛岡市、書家・沢村澄子)


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