盛岡タイムス Web News 2013年  4月 17日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉329 伊藤幸子 九州民謡

 みづからに退職の日を定めたりささやかなれどおのが意気地ぞ
                                            島田修二

 御所湖の対岸の山ぎわに、今しも日が沈もうとしている。4月12日夕方、高い雲が黄金色の帯を引き、刻々とあかがね色に、やがて燃えるあかねの色に変わってゆく。

  本日、この没(い)り日を見届けたのは、九州からいらした女性2人と尊敬する文人と、運転手の私の4人。けさは思いがけぬ名残雪で、木々も道路も真っ白になり慎重に運転した。

  文人のKさんのライフスタイルは洋々だ。65歳で退職後、早くも次のステップにギアチェンジ。あくなき探求心と知識欲を満たすべく行動される。何より机上のプランではなく、自ら学びの場を求めて海外にも赴かれる。

  こうして数年前に知り合った九州の2人の閨秀(けいしゅう)が岩手に来たいと聞き、ほぼ1週間のみちのくプランを作ってあげたというのである。飛行機の時間、宿泊ホテルの予約、観光スポットや移動時間の調整など、ゆき届いている。

  ただ盛岡市内観光の「アシ」がないため、私に運転依頼が来たのだった。朝9時、盛岡駅前滝の広場に集合。おお、映画のロケーションのようなハグの再会。私も全く初対面の気がしない。まるで、きのうの続きのように、日常の会話が交わされる。私は「続き」が大好き。「完」ははるか先のこと、きのうの続きで、あしたもあさっても続く日常がいい。

  盛岡市内ではKさんの案内で、岩手銀行(旧盛岡銀行本店)と岩手医大の啄木、賢治の詩歌碑を見学。もりおか歴史文化館やもりおか啄木・賢治青春館を見て、プラザおでってで昼食。この間、天気が定まらず岩手公園では白いものもちらついた。

  プランが桜にはまだ少し早く、石割桜もつぼみだけで残念だったが、人混みのない分、運転は楽だ。一路、小岩井方面へ。このころには雲も晴れて岩手山が顔を見せた。車中、会話のあいまに民謡をご披露する皆さんで盛り上がる。

  網張からの峨峨(がが)たる岩手山に襟を正し、小岩井農場の土の感触も確かめて、今宵の宿に到着した。日没の余韻にひたり、民謡お国巡りが再開。九州民謡、刈干切唄や稗搗節(ひえつきぶし)、五木の子守唄等々。「おどんが死んだちうて

  誰が泣いてくりきゅ 裏の松山蝉が鳴く」「蝉じゃござんせん 妹でござる 妹泣くなよ わしゃつらい」…もちろんKさんの南部民謡もみごと。

  「Kさんはすぐ原稿に書くからねえ!」と笑われたが、今宵の「完のない歌物語」は、お2人の旅の続きの無事を願って、運転手がこっそりネタを頂戴してしまった。
  (八幡平市、歌人)



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