盛岡タイムス Web News 2013年  4月 24日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉168 三浦勲夫 もうひとつの世界

 アメリカに「幸福感・悲しみ・心配」などに関する意識調査の一例がある。2008年にギャラップ世論調査会社が、34万人の18歳から85歳の成人男女に電話で聞き取り調査を行った。「精神的、感情的ストレス」に関しても調査した。調査を指揮したのはニューヨークのストーニー・ブルック大学精神行動科学部のアーサー・ストーン教授である。

  その結果「幸福感」が最も強かったのは18歳の若者と70代初期の人たちだった。ストレスを最も強く感じるのは22歳から25歳の人たちだった。ストレス感は50代に達すると急激に減った。70代および80代の人たちはマイナスの消極的感情を持つことが最低レベルだった。男女ともに同じ傾向だったが、女性の方がすべての年代で悲しみ、ストレス、心配を男性よりも訴えた。

  この傾向に関する解釈は、人間は年を取るにつれて現在の自分が所有する物質的、精神的価値に満足し、感情のコントロールも上手になるということである。さらにその人の世界観の変化や脳内化学作用にも関係し、個別的には婚姻状態、子供の有無、雇用・非雇用などの環境が関係するが、これら個別環境の影響は年齢に伴う幸福感のレベルを左右するほどのものではなかった。

  日本の意識パターンはアメリカとは異なろうが、この調査は共通する現象をも示唆するのではないか。22歳から25歳の若い疾風怒濤(どとう)の時代は悩み多き共通項のようである。嵐にもまれ、耐え抜くうちに、人生航路の操縦法も次第に身に付ける。人柄が丸くなり、感受性が鈍化する50代からは悩みの程度が減少する。精神的ストレスや肉体的疾患で若くして死ぬ人、50代以降で死ぬ人が出る。そこを生き延びた人たちは比較的「世慣れた」人の割合が高くなる。これは一般論であり、50代以降でストレスを強く感じる人たちもいる。

  老後の人生はそれなりの厳しさが増すことも事実だ。しかしその運命を直視し、受け入れて、老後を過ごせる人たちが多くなる。個人としても、集団の構成員としても、経験を積み「等身大」の自分像を的確につかみ、環境に適応して暮らす態度を身につける。老いることが「悲しみ」ばかりではやりきれない。明るく笑って日を送れるような高齢者が多い結果を示す「意識調査」にはお国柄の違いを越えて、元気を頂く。

  それでは日本、岩手、自分の身の回りはどうだろうか。夫婦で家庭を築き、子を育てる。子育て終了後は、親は家庭の枠にばかり閉じこもらず、折を見ては外に出て人と交わったり、買い物、映画、スポーツ、旅行、学習などに小さな「別世界」を発見したりすることが精神的充足、精神的健康を増してくれる。

  筆者は家庭では犬の散歩、掃除、食器の下洗いを行う。原稿を書き、ブログをアップし、授業や学習会の準備をする。ストレッチをし、時に川辺の散歩を1時間、夫婦で行う。病院に行き薬を処方される。中の世界、外の世界で「しょせんこれが自分だ」と思いつつ順応して暮らす。外の世界で開く大人向けの「英語学習会」には、30代から70代に至る人たちが来る。それは「往時の少年・少女」たちが世代を超えて交わる「もうひとつの世界」であり、個々の参加者が「幸福感」を持ち寄る世界でもある。
   (岩手大学名誉教授)


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