盛岡タイムス Web News 2013年  4月 24日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉330 伊藤幸子 卒業後五十年

 卒業後五十年経たる校庭に枝垂桜の記念樹を植う
                                 山本寛嗣

 「山口県阿武郡阿東町地福上」の年賀状を頂くようになって40年余、平成22年からは山口市と変わった。あまたの偉人、政治家を輩出しているお国柄だが私は未踏の地、時折頂くお手紙で断片的に山口県の輪郭を思い描く。地図では海に遠い内陸部を走る鉄道山口線の津和野の手前辺りに「地福上」の地名が見える。標高の高い山やトンネルが多い。

  昭和17年生まれの作者の通われた地福小学校は現在、山口市立さくら小学校となり、「新入学児童の数より来賓のわれらが多し入学式に」というような過疎の地になっているようだ。

  このたび、そこに住む作者の処女歌集「野火の炎」が出版された。大変に歌歴の長い方で山口県立山口高等学校1年生のときからで、昭和40年には全国誌に入会。代々続く家を守り、45年間のサラリーマン生活を経て地域の要職もこなし豊かな風土を詠みあげている。

  「辛夷(こぶし)咲く季を目安に籾を蒔く今年は全山一斉に咲く」「わづかなる時間さくのみ稲作の水管理して勤務に出づる」コブシの花は全国的に農事暦の目安になっているらしい。わが集落でもこの時期共同で堰(せき)上げ作業が行われる。私などは「名ばかり農家組合員」だけれど、時間と手間が足りないと「施肥むらの如実に出でて稲の葉に青はだらなる濃淡のあり」と、心が痛むことになる。

  「あかあかと野火の炎の燃えたちてそこのみ著(しる)く輝き保つ」集名にもなった野焼きの一首。山野や土手の草焼きはのどかな春の風物詩だったが、今は煙がドライバーの視野を妨げるほか消防法もうるさくなった。

  さて秋ともなれば、山のけものたちとのせめぎあいが始まる。「猪の熟れ田をよこぎる跡しるく朝の見廻り時におそろし」「去年よりは猿の集団数を増しガードレールの上を走れる」等、鳥獣被害対策としてイノシシには12ボルトの電流柵で、サルは花火で追い払うという。

  そんな中で小正月の子どもたちの行事「トイトイが文化庁にも知られけり藁(わら)の馬もて冬の家巡る」他、伝統の重要文化財の紹介もある。

  集の中には、国内外の旅行詠も多く、所属結社の全国大会には欠かさず出席。岩手にも何度も来られた。「月見坂樹下の道を登りゆき弁慶堂なる小堂に出づ」また「うすもやの入江のあたり源平の舟隠しとぞ屋島より見る」との洋上の古戦場が目にうかぶ。今年もどこかの旅の途中で、ひとつ景色を眺めたいと願っている。
  (八幡平市、歌人)


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