盛岡タイムス Web News 2013年  5月 3日 (金)

       

■  〈潮風宅配便〉148 草野悟 卒倒するうまさに感動

     
   
     

 5年間宮古に住み、三陸沿岸のことなら大抵分かるぞ、とうそぶいておりました私、この料理に出合い、無知を恥じているところであります。何の変哲もないお雑煮です。これだけなら当たり前過ぎて感動もありません。その左隣の小さな器が問題なのです。この中には、甘いクルミダレが入っています。何をするかと言いますと、右のお雑煮の中から、トロトロになったお餅を取りだし、左の器のクルミダレに付けて餅を食します。恐ろしいまでに不思議な光景なのです。しかも舌がリンボーダンスを踊りだすほど、飛び抜けたうまさなのです。お雑煮はお雑煮、クルミ餅はクルミ餅。これが日本の当たり前の文化と思いこんでおりました。宮古の住民たちは、当たり前に、お雑煮にはクルミダレがつくと絶対的自信を持っています。他の地域もそうなのだと、かたくなに信じております。

  お雑煮は、魚系だしの効いた上品な澄まし汁。そこに焼き立ての餅が二つ、熱々の汁に身をひそめています。まるで効能抜群の温泉にうっとりと浸っているようです。箸で餅をつまみますと、でれ〜っと伸びてきます。それをクルミダレに付けるのですから、常識なんてまったく通用しないのです。名付けて「お雑煮クルミ餅」。なんじゃそれって、と錯乱状態で試食いたしました。こんなにおいしいものが、まだ宮古に隠れていたとは。三陸の底知れぬ食の世界にギブアップです。考えてみれば、三陸沿岸は大昔から「クルミ」の一大産地です。クルミを使った「こびる」なども豊富です。秋に収穫したクルミをどの家も保管し冬に備えます。まるでリスのようなのです。クルミダレの濃密な風味、香りは、お雑煮でさらに温まった餅がつき立てのようになり、これ以上ない別物の料理へと変身させるのです。とても甘いクルミ餅を食し、上品なしょうゆ仕立ての汁をすすります。この繰り返し、甘い、しょっぱい、うまい、とうなりながら頂きました。奥の深い三陸、きっと知らない風習文化がまだまだあるはずです。参りました。
(岩手県中核観光コーディネーター)


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