盛岡タイムス Web News 2013年  5月 15日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉171 三浦勲夫 旅ゆけば

 「旅ゆけば駿河の国に茶の香り」(広沢虎造・浪曲「清水次郎長外伝」)。

  大型連休で人が移動した。次の連休は盆休み、それから年末年始か。海外旅行は飛行機、国内旅行は列車、自動車、飛行機、それにオートバイやサイクリングもある。昔は徒歩。列車だって新幹線はなくて、普通列車、準急、急行、特急と言った。古くから旅は不便で、遅く、封建時代には許可さえも必要だった。旅を完遂するには忍耐と刻苦が必要だった。「かわいい子には旅をさせよ」というほど、旅は人を鍛えた。しかし、この場合の旅は社会のいろいろな場での経験の代名詞でもあった。

  あまり旅好きとは言えない人でも必要に迫られて旅をする。休みになるといろいろ人が移動し、その結果、心理的玉突き現象で出不精でも旅(あるいは外出)の必要に迫られる。休みを過ごすために旅に出る。過ごし方としてはスポーツ、読書、その他の趣味といろいろあるが、他人と共同でできて、ゆっくり話せる過ごし方は「旅」だろう。家族サービスの旅がある。これを通して家族の人間関係に円滑で心地いい風が吹き込む。それがなければうっとうしく、暑苦しくなるところだ。

  今年の大型連休は寒く、雨や曇った日が多かった。岩手の花見は総じて気勢が上がらなかったようだが、考えようによっては家や近場で落ち着いた休み方をした人が多かったと言えるのではないか。2年前の東日本大震災津波の影響は大きい。しめやかに、心静かに、犠牲者の冥福を祈った人たちが多い。人生の諸行無常、一時の花に浮かれてはいられないことを多くの人たちが思い知らされた。

  筆者は自分の知る範囲で、車で片道一時間ほどの場所に夫婦や家族で出掛けた。石鳥谷のレストランでは食事の味もよく、窓ぎわの木の穴にキツツキが出入りする様子が見られた。沼宮内の石神の丘のレストランでも食事の味がよく、草原の傾斜地では歩き始めた孫が喜んだ。高松の池の桜も見たが、これはすぐそばの介護施設に母を訪れたついでに、そこから歩いて池まで足を伸ばした。普段落ち着いて語り合うことが少ない人間同士で語らうことができた。

  大型連休中には富士山の世界文化遺産登録が決定された(4月30日)。文化遺産として、古来、富士山が日本の芸術や精神文化に大きな影響を与えてきたことが評価された。「旅ゆけば駿河の国に茶の香り」と歌われるように、富士の裾野の東海道は歩く旅人の往来でにぎわった。大学生だった筆者が東京から時折見た富士山の遠望は、最初信じられなかった。西伊豆に旅した途中、静岡県で仰いだ富士山はずぬけて高くそびえていた。麓の懐も広かった。「一生に一度は登るべき山」と聞く。世界遺産となり景観整備のため五合目までの乗り入れを禁じて、麓からの登山となれば「一生に一度」も大儀となる。

  静岡県浜松市の茶畑で大規模な地滑りが発生したのは、八十八夜の茶摘みを控えた大型連休直前の4月24日だった。日本列島がさまざまに揺れ動き、崩れ落ちる。東北高速自動車道も30年以上となり、これから大規模修理期に入る。「旅ゆけば」が安全に楽しめるよう、人の成長にも役立つように、旅の環境整備が必要である。
  (岩手大学名誉教授)


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