盛岡タイムス Web News 2013年  5月 22日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉334 伊藤幸子 「立花隆の書棚」

 一生に人の読む本は知れたもの思ひ思ひ過ぎぬこの幾年か
                                        落合京太郎
                            「角川現代短歌集成」より

 2013年3月10日発行の「立花隆の書棚」を読んでいる。「読む」というより「見る」のが楽しみな本。厚さ5aを超える650nの大冊だ。表紙も背表紙も中身も、書棚に横に寝かせた本のすみかの写真が目を奪う。

  20年前に、ネコビルと呼ぶ氏の自宅兼仕事場を造ったとき、蔵書数をざっと数えたら10万冊を超えているとみた。地上3階地下2階だが、ここにあるものですべてではない。ほかにも目的ごとに区分けした資料やインターネットの情報のプリントアウト類など、書棚に入りきれないものも膨大な量に上るという。

  辞典のように厚く重い本、第一章「ネコビル一階」、二階、三階、地下一階というふうに七章まで、本の置き場を章立てにしているのも興味深い。三階東棚と南棚の四つ折写真は圧巻だ。この本の群を読み、吸収し、整理してゆく作業。もちろん助手の方々も大勢おられるだろうが、「あの棚の、あの本は」と語り出す立花さんの心弾みがどのページからも聞こえてくる。

  たとえばアシモの項。ロボットやコンピューター関連の棚、「オンライン・コミュニティがビジネスを変える」「コンピューターには何ができないか」などの本の背文字が見える。人工知能でせいぜい可能なのは、ホンダの作ったアシモのようなロボット。しかし実はすべて舞台裏で人間が操作しているのと同じ。ロボットの脳ではなく人間の脳であり、研究が進めば感覚神経の接続面も可能になるという。私などの理解の外の世界でも、知らず知らず立花書架にひきつけられる。

  氏は一時期、フランス中部ブルゴーニュのニュイ・サン・ジョルジュの隣村に家を持っていて毎年夏はフランスで過ごされたという。「ブルゴーニュ公国の大公たち」を読んだことがあるとないとでは、ヨーロッパの捉え方がまるで違ってくると説かれる。

  政治家の質を見分ける章の「職業としての政治」には現役の政治家が続々登場。マックス・ウェーバーが「距離感をちゃんととれることが、政治家にとって最も大切な資質」と強調していることにふれ、「聞きかじりで引用する人は本質的な意味を理解していない」と述べられる。何をどう読んでいるか。書き手、読み手の知識の水深が計られることである。氏の執務室には携帯電波が不通という。歴史の断面たる書棚がそびえ立つのみである。
(八幡平市、歌人)

 


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