盛岡タイムス Web News 2013年  5月 27日 (月)

       

■  〈幸遊記〉125 金野吉晃の4枚組第5列

 「ベルアベドン」という即興演奏の4人組が、盛岡から陸前高田へやって来たのは、1996年ころのことだった。面白い名前だったから僕は地元紙に広告まで出したのだったが、客が一人も来なかった。最近、リーダーだった金野吉晃さんにあのバンドの名の意味を聞いたらなんと、利尿剤(ベルアベトン)の名前だった。どうりで客離れまで良かったはずと今になって納得した。

  金野吉晃(ONNYK)さん(56)は、陸前高田市にあった金清薬局≠フ長男で、のち盛岡での開業医・宏太郎(1926〜2011)さんを父に持つ、盛岡生まれの気仙系2世。岩大附属小学校・中学校、盛岡一高、岩手医大歯学部へと進んで、そのまま今も、医大に矯正歯科講師で勤めている。

  だが彼が言うには「困ったことに、何かに習熟しようという気がない」のだと、だから「楽器は何でも一応こなせるが、実は何もできない、応用が利かないから、音楽も矛盾的演奏で、俺というソフト≠楽器というハード≠ノ入れると音が出る、ダンナ芸なのだ」と笑う。だが、どんな種類の楽器で演奏しようとも、歴然とそこには彼の音≠ェ存在する不思議。

  だからなのだろう、その道の巨匠、ジョン・ゾーンやフレッド・フリス、豊住芳三郎等々との共演歴を持ち、80年代にはLPやEP。CDになってからも、僕の手元にあるだけでも10枚を下らず、しかも国内はもとより、外国レーベルからの出版も何枚かあるのだ。そしてついに、今度は、76年から2000年までの音源と、83年から10年までの映像が、CD3枚、DVD1枚の4枚組作品集「第五列」(スパイ・後方撹乱部隊の意)として13年4月24日にディスクユニオンから発売(制作元・ユース)になった。

  中身はありとあらゆるジャンルの演奏家たちとの共演による即興演奏。CDジャケットもまた、独特の変な絵心がある彼の作品。音源には計60人が参加していることから鳴禽(めいきん)反動集団とし、中身はズボンの裏に生えたカビのごとき音だという。確かに01年から、時折僕の店で彼が主催していた、フリーやノイズといった一種異様なジャンルのコンサートに集う音者たちにとって、彼はまさにカリスマ的塾長であると言えた。
(カフェジャズ開運橋ジョニー店主) 


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