盛岡タイムス Web News 2013年  6月  1日 (土)

       

■ 〈わが歳時記─6月〉 高橋爾郎 

 水無月6月、野も山も新緑から濃緑に移る季節だ。去年も書いたが、いまわが家では牡丹の花盛りである。真紅、薄紅、薄紫、白の4種類が咲き競っている。特に薄紅と純白の花が並んで咲いている対比が何とも言えぬ風情である。牡丹には「二十日草」「深見草」「富貴草」「名取草」など別の呼び名もあるが、みなしっくりしない。やはり牡丹が一番ふさわしいと思う。



  先日ぜひ見たいと思っていた秋田県小坂町の旧小坂鉱山事務所と康楽館を見てきた。いままで機会がなく、やっと念願がかなった。かつて小坂鉱山は栃木の足尾、愛媛の別子(べっし)とともに日本三大銅山と称された。その繁栄ぶりを物語る豪壮華麗さをいまに残している鉱山事務所である。まさに日本一の大鉱山のシンボルともいうべき、ルネッサンス風の意匠を施した堂々たる風格の建物である。明治38年完成という。天然の秋田杉をふんだんに使った木造総3階建てで延べ床面積2596平方bという。写真では分からないが屋根の三つのドーマーウインドー(飾り窓)、それぞれの三角形の窓飾りのついた整然とした窓が気品と格調の高さを思わせる。正面中央のサラセン風のバルコニー付きポーチには、まるでレース編みのような透かし彫りが施されている。正面玄関を入ると3階まで、らせん階段が美しい曲線で続いている。2階の中庭は素晴らしい庭園となっている。所長室の広さにも驚いた。壁には福田豊四郎画伯の大作が掲げられている。ゆっくり時間をかけて室々を回ったが感嘆の声の連続だった。

  次に康楽館へ行った。こちらも小坂鉱山の厚生施設として明治43年落成した現存する日本最古の芝居小屋である。写真の通り和洋折衷のモダンな建物だ。館内は江戸時代の小屋さながら回り舞台に向かって左側が本花道、右側に細い仮花道、桟敷の中央に道板がある。2階もぐるりと「向う桟敷」になっている。地下をくぐると舞台の下は人力4人で押す回り舞台がそのまま残っていて、いまも使用しているという。見学した日も興業中だった。この康楽館も旧小坂鉱山事務所も国の重要文化財に指定されている。とても楽しく目の保養の一日だった。



  白牡丹といふといへども紅ほのか
  高浜虚子
  ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに
  森澄雄
  落日のごとく崩れし牡丹かな
  稲垣きくの
  夜の色に沈みゆくなり大牡丹
  高野素十
  牡丹咲くのみの天地?(いの)りをり
  石川桂郎

(歌誌編集者) 


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