盛岡タイムス Web News 2013年  8月  28日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉348 伊藤幸子 「長寿コメント」


 聖書読み新聞読みてらつきようを甘酢漬にし昼時となる
                                   関とも

 短歌総合誌「歌壇」9月号に、特集「80歳からの短歌人生」が組まれて80歳以上100歳までの32人の短歌3首と「長寿の秘訣」コメントが載っている。大正2年から昭和8年生まれの方々のご長寿コメントがおもしろい。もちろん短歌雑誌に指命されているのだから、長寿の秘訣は歌作りと答えるかと思いきや、32人中8人のみで、それよりも「日々忙しい」と答えた人が圧倒的に多かった。

  巻頭エッセーで87歳の春日真木子さんは「老いて成熟、老いて豊穣なんてとんでもない。若い時の無邪気さ、柔軟さはない。直観力、想像力も衰える。社会とも人間関係も希薄になる。そこから脱出のために、見方を変えよ、言葉を選べと自らを責めたてる。でもよくよく考えてみれば、この苦痛こそが生きる証ではなかろうか。老いとは生き続けること、書くことは生きることへの闘いである」と断言される。

  32人中、男性は15人で、禁酒禁煙、定期検診を50年という人もあり、女性では「むやみに検査しない」という人もいて私もその口だ。「悲喜こもごも、ただなんとなく生きてきた」というのも90歳代の男性のいつわらざる実感であろう。

  掲出歌の関ともさんは、窪田空穂門下の「まひる野」同人で第六歌集も出された実力者。「聖書読み新聞読みて」という東京の戦後の暮らしの安定と、らっきょうを漬ける主婦の生活の秩序が心身の健康を支えられたようだ。

  「若からぬ息子と妻女ら老(おい)われを誘ひて小さき冬の旅する」「遠き日に憧れし箱根のホテルにて家族五人が過さむと行く」今年4月の作品。私は今回の特集を読むまで、関さんが95歳とは思わなかった。「生涯に登りし山の三十を越えたることに吾と驚く」という活発な作品もあり、壮健世代の方と想像していたものだ。95歳の作者の息子さんの運転で、箱根に行かれる習慣も、戦前からの豊かな文化の積み重ねが想像されて映画のワンシーンを見るようだ。

  同じく95歳の女流の二作。「わが泣けば背なの娘も激しく泣き出でて征く夫を送りきあかときの駅に・三好けい子」「反戦の火種となりゐぬ痩せこけて復員したる夫のあの日が・笠原さい子」戦後68年、100歳の半藤義英さんの作品「たたかひを経たるおもひの奥処占(おくがし)む人生行路戦前戦後」そして長寿の秘訣は、「百歳坂を越えた時、未知の扉があり無数のレールが続いていた」とある。ああ、私の好きな「続」の世界。未知の扉よ、永遠なれ…。
(八幡平市、歌人)

   


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