盛岡タイムス Web News 2013年  11月   20日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉360 伊藤幸子 「ハッケヨイ」


 男の子どこからとなく砂が落ち
                    根岸川柳

 一年納めの大相撲九州場所も中盤にさしかかった。「本場所も序盤を過ぎると気持がほぐれ、一日の長さを感じるのは中日までで、十日目あたりになればあとは千秋楽まで、するりとすぎていく」と、大相撲の世界を書いた鶴川健吉さんの小説「すなまわり」がおもしろい。作者は昭和56年生まれの元行司さんで、本作は第149回芥川賞候補作。

  作者は中学生のころから相撲字の書体でしこ名を書くのが得意で、家ではラジオで相撲中継を聴いた。机の引き出しには相撲関係の新聞の切りぬきがいっぱい。そうして都立高校を中退して相撲部屋に入門したという。

  まず土俵に上がったら、きょろきょろしない。まっすぐに、枡席(ますせき)中段あたりに視線をすえて、かかとを徳俵につけたまま、呼び出しが力士を呼び終えるまで待つ。「止まった相撲には『ヨイ、ハッケヨーイ、ヨイ』で力士を発奮させ、それでも動かない場合は『ススンデ』とうながす。動きだせば、まだ勝負はついてないよと『ノコッタ、ノコッタ』を連呼。行司はこの三つを使い分けて裁くのだと教わった」

  勝つほどに上ってゆく力士の番付に比べ、行司番付はゆっくりだが、差し違えをしても落ちない。新米のころ、土俵上で力士のゆるんだまわしを締め直す場面。軍配を背中に回し、紐(ひも)は口にくわえて両手を使う。「しっかりと噛(か)みついた軍配の紐から、一緒くたに滲(にじ)み出てきた塩辛さと苦みのある唾(つば) を自分は飲みこんだ。こうして両者の背中に手を置き、ハッケヨイのかけ声と共に再開」の土俵が鮮やかだ。

  さて、きょう(16日)は7日目。福岡国際センターに初めて「満員御礼」の垂れ幕が下がった。ぽつぽつと着物姿の女性客も見える。昨日は中入り後、元ビートルズのポール・マッカートニーさんが姿を見せ観客席が大いに沸いた。

  このごろは平成生まれのお相撲さんも増えてきた。前頭7枚目、23歳の遠藤。ことし春場所初土俵、二場所で新入幕、まだ髷(まげ)も結えないスピード出世の初々しさに館内大声援。エジプトから来た大砂嵐は21歳。ひきしまった赤銅色の筋肉もたくましく日本語が上手だ。

  今しも39歳の旭天鵬が平成生まれの安を破り、通算勝ち星860勝を達成、寺尾と並び歴代6位となった。インタビューも輝いていた。二横綱安泰、松鳳山を下した白鵬に「背中に手形のひとつふたつ、はたきこみ!」と告げる藤井アナウンサーの声もはればれ。明日の土俵も楽しみだ。
(八幡平市、歌人)


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