盛岡タイムス Web News 2013年  11月   21日 (木)

       

■  〈夜空に夢見る星めぐり〉342 八木淳一郎 ホーキ星の親しみ2


 今から27年前のハレー彗星(すいせい)は世界中の人が関心を持ち、わが国でも望遠鏡メーカーは連日徹夜でフル操業。それでも需要に追いつかなかったというエピソードがあります。

  最初から予想されていたこととは言え、1910年のときのような雄大な姿には程遠いものでしたが、ともかくも、頻繁に観測会、観望会があちこちで開かれ、筆者の家でもそれらしいことを実施してみました。

  あるとき、母親が見たいといってタクシーに乗ってやって来ましたが、もうすでに赤ちやんをおぶった人や買物かご片手の通りがかりの人、近所の人たちなどで長蛇の列。さらにタクシーの運転手さんも母を降ろした後、じゃ私もついでに、と望遠鏡で見ようという人たちの列に並んだのでした。順番が近付くとその運転手さん、ポケットからやおらハレー彗星のデータ表と星図(星の位置を記した、天の地図ともいえるもの)を取り出して確認しはじめました。決してにわか天文ファンではなかったのだとおそれ入ったものです。

  1910年の回帰の時といえば、わが国は明治の末。今と違って科学的な知識はアリストテレスの時代ほどではないものの、比べ物になりません。実際、地球がハレーの尾の中を通過したわけですが、毒ガスとも言える成分で人類は滅亡するに違いない、とパニックになった場面もあったようです。

  家財産を売り飛ばし、毎晩どんちゃん騷ぎで飲み食いして最後の日を待とうとしたご仁もいたらしいのです。あるいは、ゴムのチューブが酸素ボンベ代わりになるとのデマでたくさん売れたり、洗面器の水に顔をつけて長く息を止める練習に励む者、毒消しと称する怪しげな薬でちゃっかりひともうけする者などなど。

  こうしてみますと、科学知識のレベルはともかく、表示と違う食材のこととか原発の安全性うんぬんなど、分野は違えど今のご時世もあまり変わりないのでは―そんな気がしてきました。

  結局はこうして、子孫である私たちがいるぐらいですから、何事もなく終わったのですが、それは、彗星の尾が真空管の中よりもずっと希薄なために害を及ぼさなかったということです。彗星や小惑星の怖さは言うまでもなく衝突にあります。こればかりは運を天にまかせるしかありません。みんな寝静まった頃、夜ごと、世界中のあちこちで専門に作られた、たくさんの天文台が捜索活動や軌道の計算、追跡調査を続けています。衝突することが分かったとして、避けられるのかが問題ですが。

  さて、ただ今接近中のアイソン彗星に関する書物がたくさん出回っています。世紀の大彗星!というキャッチコピーですが、あんまり大騒ぎすると恥ずかしいのかどうか、そうっと目立たなくなってしまう例がたびたびでした。

  今度こそ本物の大スター誕生か―いずれにしても明け方未明の空での出来事ですし、寒さも大変な時期ですから、それなりの準備のもとに見てみましょう。
(盛岡天文同好会会員)


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