盛岡タイムス Web News 2014年  2月  12日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉371 伊藤幸子 「四温の午後」


 枯枝に初春の雨の玉円(まど)か
                 高浜虚子

 1月31日は旧正元旦、2月4日は立春と季節のはざまの寒暖差が続く。故江國滋さんの「きまぐれ歳時記」より。「いきなりこの句を示されて、季語はいつかと問われたら、とっさにうろたえてしまう。正解は『しょしゅん』歳時記の『初春』の項に載っている。ただし、たいした句ではない」

  たいした句であるか否かはさておき、この「しょしゅん」と「はつはる」の読みは重要だ。「初夏があって、初秋があって、初冬があって、だから初春があるのは当然すぎるほど当然のことなんだけど、でもちょっと困るんだよなあ」と江國さん。春を初・中・晩春に三分割して、しょしゅんといえば現行暦の2月に当たる。はつはるなら新年の季語。いちいちルビをふるわけにもいかない。

  「去年今年貫く棒の如きもの」いわずと知れた虚子の代表句。「虚子忌」についても、江國さんに教わった。明治41年9月14日、夏目漱石の『吾輩は猫である』の猫が死んだ。門下の俳人松根東洋城から〈センセイノネコガシニタルヨサムカナ〉との電報が届き、返信に虚子が〈ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ〉としたためた。江國さんは「もちろん猫の戒名のことで『吾輩は猫である。名前はまだ無い』との有名な書き出しに呼応しているところが芸といえば芸である」と書く。

  高浜虚子、昭和34年4月8日午後4時逝去、85歳。戒名は「虚子庵高吟椿寿居士」。今、虚子の流れをくむ結社で、主宰の交代が相次いでいるという記事を読んだ。

  朝日新聞1月27日付「俳句時評」に「四代目の挑戦」として、田中亜美氏の一文である。日本最大の俳句誌「ホトトギス」は昨年1400号を迎え、4代目の廣太郎氏へ引き継がれた。虚子の孫世代が全員女性であるのに対し、ひ孫の3氏は50〜60代の男性陣という。

  「文藝春秋」12月号にはそのひとり、「花鳥」主宰の坊城俊樹さんの「十三夜」7句が掲載されている。「秋の夜をスパンコールの嘘つきと」「団栗を置き頬杖のカウンター」「銀漢を仰ぎあたしとぢやだめなの」など、生き生きと、なんとも魅力的な句が並ぶ。「三人とも虚子が理念とした花鳥諷詠や客観写生の伝統を受け継ぎながら、どこかに現代人らしいエッセンスを盛り込んでいる」と評される田中氏に納得。江國さんなら何といわれるだろうか。「芳春の候と書こうか書くまいか」私の好きな(江國)滋酔郎さんの句。「四温の午後はうす曇りして」と付けてみた。
(八幡平市、歌人)


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