盛岡タイムス Web News 2014年  2月  19日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉372 伊藤幸子 「鶴亀算」


 二と二では四だが世間はさうでない
                      近藤飴ン坊

 2月4日、ことしは立春と初午(はつうま)が重なった。2月最初のうまの日、京都伏見稲荷や各地の稲荷神社では初午祭が行われた。そして私がおもしろいと思うのは、この日は江戸の寺子屋の入学日だったという話で、今から200年ぐらい前の学童たちの姿に思いをはせた。

  北嶋廣敏著「江戸人のしきたり」によると、「二月初午のこの日、小児、手習・読書の師匠へ入門せしむる者多し」として、始業時間はふつう朝の五ツ時(午前8時ごろ)で、昼の八ツ時(午後2時)までだった。休日は毎月1日、15日、25日。夏休みはなく、正月休みは1カ月ぐらい、他に節句休み、盆休みなど。

  寺子屋で主に教えたのはなんといっても「手習い」である読み書き。初午の日に入学し、「いろは…」の7文字を一千字書く練習というからすごい。「一字千金」は七千両の重みか。この時代、6歳入学が多く在学期間は自由だった。

  なかでもここでの傑作は「鶴亀算」と呼ばれる算術の問題。文化12年(1815)の算術書の孫引きだが「鶴と亀が合わせて100匹いる。足の合計は272本だが、鶴と亀はそれぞれ何匹ずついるか」と問うている。ワァー、高度だ。私など手指足指総動員しても混乱してしまうけど、寺子屋わらわたちはたちどころに分かったのであろうか。答えは鶴が64羽、亀が36匹である。

  これには楽しいおまけがついていて、「鶏と犬と蛸(たこ)、合わせて24匹いる。足の合計が102本のとき、鶏、犬、蛸はそれぞれ何匹ずついるか」というものだ。おかしくておかしくて、答えは一つではなく、7通りあり。その一つは「犬が3匹、蛸8匹、鶏13羽」という。蛸は1匹と数えるものか疑問だが、私もはじめは真面目にあと6通りを考えたものの、犬が蛸に食いつく図がちらついてやめた。

  寺子屋というと、4年前の歌舞伎座さよなら公演で観た「菅原伝授手習鑑」を思う。寺小屋を営む源蔵(仁左衛門)の女房戸浪を勘三郎、きょう入学した小太郎の母を玉三郎という最高の舞台だった。子どもの数より机が一脚多いこと、それを言い繕う戸浪の声音、しぐさが今も目に浮かぶ。あの場面の「涎(よだれ)くり与太郎」らの幼児ぶりに身をよじらせて笑った。

  おかしくて、悲しくて―。川柳作家飴ン坊さんは本名近藤福太郎。明治10年東京日本橋生まれ。新聞記者、鶴亀算ではないけれど「計算が合はない夜更け汽笛鳴る」など、好きな作家だ。昭和8年2月没。
    (八幡平市、歌人)



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