盛岡タイムス Web News 2014年  3月  30日 (日)

       

■ 吉野重雄さんの死を悼む 岩手県詩人クラブ会長 東野正

 人は必ず死ぬ、そのことは頭では理解し、やがて自分自身の死を迎えることになることも、決して了承できるものではないと絶えず心のなかで反芻(はんすう)して生きている。受け入れ難いのである。生きることに執着し、死をなんとか遠ざけたいと防御戦を張り巡らし、それには触れぬようにして生きていくしかないのである。必敗の戦いでしかないのであるが。

  岩手県詩人クラブの6代目の会長を務められた吉野重雄さんが急逝された。自宅の2階の書斎で机に向かって書き物をしている最中に、体の中に異変が起こり、静かにこの世を去られたのである。これは不謹慎な言い方になってしまうが、詩を愛好し、書き続けた文人としては、なんとも理想的な死に方ではなかっただろうか。

  吉野さんは生前3冊の詩集を刊行されている。「吉野重雄詩集」、随筆も収録した「私の峠」、そして「隠れ里」であるが、詩篇を貫くのは、6歳から移り住んだ沢内村を原風景としながらも、教員を勤められた経験からの教育者としての友愛、そして両親への感謝に満ちた視線である。さまざまな風景、言葉、人々との出会いを作品に残されてきたのである。

  最後の詩集となった「隠れ里」の最終章「終の住処」にある「手帖」の最終連では

 そのうち
  何も書いていない手帖が
  書斎の机の上に
  ぽつんと置いてある
  ようになる

 とあり、極めて印象的な連で閉じられている。

  吉野さんが平成17年に会長に就任されたとき、私も事務局長を務め、それこそ二人三脚状態でさまざまなことに取り組んできた。詩人クラブとして刊行を続けている年間アンソロジー詩集「いわての詩」は、紙上での会員交流を図られた吉野さんの発案である。誠実そして実直なお人柄で6年間も会の運営をリードしてきた功績は大きく、指導を受けて動いたことが懐かしく思い出される。

  今、吉野さんは「隠れ里」に静かに引き籠(こ)もられた。ただただ、そのあまりに急な死に衝撃を受け、その死を悼むしかないのが無念である。


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