盛岡タイムス Web News 2014年  5月  29日 (木)

       

■  〈風の筆〉52 沢村澄子 「1枚50円」

 

 書道用半紙が今1枚いくらかご存知だろうか。

  近年値上がりに値上がって、昨日書道用品店の棚を当たるに、高いので1枚40円くらいだった。金粉が飛んでいるというのではない。ただの白い半紙でだ。繰り返すが、1枚40円。わたしはちょっとめまいがした。もとより、自分には全く関係のない高級半紙の値段だとしても、である。

  さらには、わたしと深い絆で結ばれた最も安い半紙もまた値上がっているから困った。1枚1、2円だったはずのものが、いつの間にか5円に。いや〜ぁ。どうしたものか…。書く量を5分の1にすればいよいよ下手になりそうだし、5倍の収入を見込む手立てもまるでなく、ちょっと、本当に、途方に暮れるのだ。
「書家はどうして手紙やはがきを筆で書かないのスか? はがきは1枚50円の半紙ですよ。それを印刷しておいて、他のどんな紙に練習するというのッスか?」一関にお住まいで、2011年に亡くなった書家・梅津鳴上先生から、年賀状の季節に何度も拝聴した懐かしい話だ。

  先生は何百枚という年賀状の両面を、全て自筆で処しておられた。もちろん筆である。書家なら当然だとおっしゃっていた。

  「半紙やもっと大判の紙で始終稽古しているといいながら、はがきは印刷するというのはおかしな話だ。そうでしょ。アンタ、そう思わないッスか?」と、先生はよくおっしゃった。

  この話は大いにこたえて、それで、日頃1枚1円ちょっとの半紙しか使えないわたしも、正月には、1枚50円のはがきを練習に使う。年賀状は自筆。筆で書く(宛名だけの年もある)。

  ところが、昨今また困ったことに、展覧会のDM、案内状はがきに、筆で宛名を書くようなスペースがなくなってきたのだ。年々少なくなってきているように思う。おそらく、宛名は、2×5aくらいのシールで貼られてゆく時代になったのだ。そのスペースさえ確保できれば、後はできる限りの情報を詰め込む。誰が、筆で宛名を書くことなど念頭に置いてDMを作るものか。

  しかし、やはり、自分の展覧会の案内はがきにボールペンで宛名を書いて出すのは少し惨めな気がする。昔は、作品写真と宛名の文字の二つのパンチで、お客様にいらしていただけるかどうか賭けたもので、その1枚1枚がまさに真剣勝負だった。その文字の中身こそ、先様に必要な情報だと信じてやまなかったし、その名前を書く一瞬にこそ、思うこともあったりした。

  たった今、「昔は」なんてキーボードを打った自分に驚いてしまったのだが、その昔は1晩で千枚くらいの半紙は優に書いていた(1枚50円だと1晩で5万円のごみを出すことになる)。レコードに針を落としたつもりがいつの間にか終わっていて、それを何度も繰り返すうちに窓の方が白んできて、あくびをしながら目をこすると、鏡を見てびっくり。目の周りが真っ黒で。

  そうこうするうち、今年ついに、わたしが使う最も高価な紙が52円に値上がっていった。
(盛岡市、書家)


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