盛岡タイムス Web News 2014年  6月  7日 (土)

       

■ 〈ジジからの絵手紙〉64 菅森幸一 「ご巡幸」


     
   
     

 天皇陛下が皇居から一歩でも出られることを行幸(ぎょうこう)といい、方々を巡ることを巡幸(じゅんこう)というのだそうだ。戦後、敗戦の困苦にあえいでいる国民を慰めたいと天皇陛下の地方巡幸が始まり、昭和22年の夏、盛岡においでになることになった。ジジは5年生になっていた。

  何しろ戦前は天皇陛下の車が町を駆け抜けるとき、国民は頭を深く垂れるか、土下座をして見送らなければならなかった。天皇陛下を直視することなど当時の国民には思いもよらなかった。

  まだ日本はアメリカ軍を中心とした駐留軍の監視下にあり、国旗の日の丸の掲揚も許されていなかったし、万歳を唱えることなど、もってのほかと考えられていた。先生方もどう対処したらいいか困ったと思う。

  場所はどこだったか忘れたが、きちんと整列させられたジジたちは、一言も言わず静かに頭を下げていた。やがてやって来た小豆色の車がやたら立派で、ちょうど目の前にあった大きな水たまりにはまって泥だらけになる心配だけをジジはしていた。ひそかに勇気を出して車の中をのぞいた友人の話では「人の良さそうなオジサンが手を振ってニコニコ笑っていだっけじゃ」だってさ。


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