盛岡タイムス Web News 2014年  10月  29日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉407 伊藤幸子 草木の実の木版画展


 ふゆ山に潜みて木末(こぬれ)のあかき実を啄(ついば)みてゐる鳥見つ今は
                                          斎藤茂吉

 「盛岡タイムス連載100回記念―八重樫光行―草木の実木版画展」が、ななっく4階ギャラリーヒラキンで26日まで開催された。私はこのコーナーが大好きで、水曜日のタイムス紙1面に載る原色の版画と、添えられている文章の妙味に打たれ動悸(どうき)しながら読んでいる。

  ことし1月15日付はナツメの絵。「盛岡城公園から下の橋を渡り、明治橋に向かって自転車を走らせていたら、白い建物と駐車場、道路に枝が懸崖に下がり実が楽しく付いている」として、赤い実が三つ、まだ青い実も下がり右上に「なつめ」と彫られている。

  3月26日はネムノキの版画。今回は花を終えた莢実の描写。「昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木(ねぶ)の花君のみ見めや戯奴(わけ)さへに見よ」と万葉集の一首を抽(ひ)かれている。「最近、区界峠近くの農家でむしろを敷いてカツラの木の葉を大量に干している人がいた。いい香りが山いっぱいに漂っていた。カツラは香の木、ネムの木はネブッタ香とも呼んでいた」とのこと。

  しかし8月20日、わるなすびの項には驚いた。40年ほど前、鎌倉市腰越の一関市出身の菅原通斎の屋敷の坂の石垣に生えていた植物。触ると葉の裏まで鋭いトゲがあり、名前の通り悪なすび。今回の展示会場には淡いピンクの花が悪そうではなく彫られていた。

  また、会場で私が求めたのは「とりはまず」とあるまっ赤な実の版画。花は白く、葉が3中裂しているのが特徴という。日本名肝木(かんぼく)、美しい紅実なので食べられるかと思ったら、「とんでもない、ヨメコロシというぐらいで有毒」と教わった。ちなみに「ヨメノコシ」なら毒はないがあまりうまくないドングリのこと、と八重樫先生の世界は限りなく深い。

  クマイチゴの素朴な描写、9月10日付。「親グマが子グマと子別れするとき、クマイチゴが多くなっている場所に連れてきて、子グマが夢中で食べているうちにその場から去る」との解説文。じわっとこみあげるものがある。

  9月24日付は第100回。「北上川に架かる都南大橋近くの道路脇の理髪店で植えられた山野の花を見ていると、店の奥さんがユスラウメの花を1枚摘んでくれた。家に帰ると西洋スグリの赤い実とユスラウメの小枝を誰かが玄関に置いていってくれた。やはり100番目はユスラウメであろう。私は制作してひと粒口に入れ、トロッとした甘さを味わった」。祝、100回連載、さらなるご活躍を祈ります。

(八幡平市、歌人)



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