盛岡タイムス Web News 2014年  11月  23日 (日)

       

■ 〈ジジからの絵手紙〉76 菅森幸一 肥溜トイレ

     
   
     

 食糧難のこの時代、秋の収穫期に近隣の農村を回り野菜などを買い求めるのが年中行事のひとつだった頃、立ち寄った農家でトイレを拝借したことがある。

  庭の片隅の小屋の地面に大きな桶(おけ)が埋められており、中には膨大な量の糞尿(ふんにょう)が強烈な臭いを放っていた。その上に2枚の板が渡されており、どうやらその板にまたがり軽業師のごとく用を足すものらしい。当時、人間の糞尿は農作物にとっての貴重な肥料として大切にされており、その処理と保存に対する人間の知恵が一挙両得な肥溜(こえだめ)という壮大なトイレを考え出したに違いない。

  恐る恐る2枚の板に体重を任せ用を足そうとしたが不安定この上ない。その頃の一般家庭にあった大便器には「金かくし」なるものがあり、そこにつかまることで体のバランスがとれたり、力を入れたりできたが、ここでは頭の上の一本のロープだけが文字通り命の綱らしい。

  そういえば田んぼや畑のあぜ道にも大きな「肥溜」という人糞貯蔵桶が埋めてあり、よく中に落ちたとか足を踏み入れたとか、とにかく臭い話の話題には一年中事欠かなかったもんだよ。


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