盛岡タイムス Web News 2014年  12月  24日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉415 伊藤幸子 「満州体験」


 うつつにも雪降り出でぬ老い母が満州語る老人ホームに
                                朝長スミエ

 輝くノーベル物理学賞受賞に世界中が沸いた師走11日、斬新浩瀚(こうかん)な本が届いた。黒澤勉さんの「オーラルヒストリー 拓魂」である。

  氏は2011年岩手医大を定年退官後、盛岡タイムス紙に南部駒蔵のペンネームで多岐にわたり作品を書かれ、著書多数。今回は6年もの時間をかけて、聞き書き、考察された戦争、シベリア抑留、満蒙開拓の苦闘をつづる壮大な一巻となっている。

  白地の表紙の両端を縁取るグレーの配色は、雪とツンドラの象徴かと解釈、中心に横文字のタイトル。そして「満州開拓殉難の塔」の前でのさんさ踊りの写真。達増知事の「推薦の言葉」、柳村滝沢市長の「発刊に寄せて」が本書の奥深い生命力を照射している。この満蒙開拓の犠牲者をしのぶ慰霊の塔が滝沢市砂込(国道4号、盛岡大学向かい側付近)にあるということも本書で知った。

  近くて遠い国満州―。身の周りに満州を語り、関わりをもつ人は多い。しかし、どの例も戦争体験者として個々のものであり、集団を離れた戦後はむしろ語らずに年齢を重ねていった。

  黒澤さんはそうした中で、平成20年ごろから中国黒竜江大学の張大生教授と親交され、同年「21世紀 日中東北の会」を設立。それからはほぼ毎月1回、年に10回の講演会を開き、そのつど会報を発行。その模様は盛岡タイムスに写真入りで詳細に紹介された。

  満州体験とはどのようなものであったかを私は老いた語り手たちの口吻(こうふん)、聞き手の心情を思いながら読み手の世界を深めていった。今、改めてすさまじい生の記録集にたじろぎ、この大冊に言い知れぬ感動を覚えている。

  一巻は6章から構成され、「山上忠治の満州」「田代寛の満州東北村」「田村博・高橋直治満蒙開拓少年義勇軍」「依蘭岩手開拓団物語」「岩手山麓開拓物語」「日本の近代史から」と、どのページも理想郷満州への愛と戦争の惨に満ちている。

  岩手県から満州開拓民の送出についても、終戦子の私には全く知識が乏しいが、昭和7年から20年まで渡満した満蒙開拓少年義勇軍の青少年は2072人という。盛岡の公会堂で壮行式がなされた由、歳月の嵩(かさ)に気圧される。

  掲出歌は本書プロローグより引用させていただいた。オーラルヒストリーという分野に、まさに記録文学の金字塔を築かれたと感銘。高齢化、体力記憶力の薄らぐ中での名聞き手による名著、多くの方々に読まれるよう祈ってやまない。
(八幡平市、歌人)



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