「モッス」という言葉は「お頼みもうす」の語尾が変化したと言われるあいさつの一つだ。ジジたちが子どもの頃、お店に買い物に出掛ける時、ごく当たり前に使っていて今の「ごめんください」にあたる。
近所にわが家のなじみのお店があってよくお使いに行かされたものだ。もちろん全ての商品が不足していた時代だから、せいぜい豆腐とか納豆を買いに行く程度だったが、そのお店には戦前からのいろんな商品ポスターが貼りっぱなしになってあって、見ているだけで楽しかった。
「モッス」のあいさつで店の戸を開けると店番のおばさんや他のお客さんとの会話が待っている。家や学校の事、近所の様子など、おばさんたちの相手をしながら壁のポスターを眺めては、まだ見たこともないチョコレートやキャラメルを想像して夢をふくらませるのだった。
「ごめんください」のあいさつがジジの周りから消えちゃったのはいつ頃からだったろう。黙って店に入り、黙って品物を選び、黙って金を払い、黙って店を出る。そんな生活が味気なくて、この頃ジジは郊外型の大型店に入るときも「モッス」とつぶやくことにしているんだよ。
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