盛岡タイムス Web News 2015年  3月  22日 (日)

       

■ 〈教育ほっと茶話〉3 野口晃男


  第5話【その子の笑顔にはわけがある】

  退職して間もない時、こんなことがありました。ある日の午後、わたしは、自宅前で草取りをしていました。そこに、下校途中の小学生が数人通りかかりました。いつものように、しばし歓談してから別れました。

  わたしが、「さよなら」と言って麦わら帽子を取った瞬間、低学年の子が「あっ、はげてる」と言って笑い出しました。私は、一瞬、厳しく注意しようと思ったのですが、ただの注意ではつまらないと思い、低い声でそっと言いました。

  「あのね、気を付けた方がいいよ。わたしが子どもの時、君のように笑ったことがあったの。そうしたら、おじいさんになってから、こうなってしまったんだよ」その子は、話している意味を理解したらしく、とても悲しそうな顔になりました。心から後悔してしょげかえっているその顔があまりにも悲しそうに見えたので、気の毒に思った私は、こう付け加えました。

  「でもね、心配しなくってもいいんだよ。次からは言いませんと、にっこり笑って指切りすれば大丈夫なんですよ」その子は、ごめんなさいと謝って、にっこり笑ってかわいい小指を出しました。それ以来、その子は、わたしと顔を合わせるといつもニコニコ顔です。

  第6話【かぜ防止】

  盛岡に初雪が降った日、大学の教室でこんなことがありました。一人の女子学生が、帽子をかぶったままで教室に入ってきました。私と目が合った瞬間、帽子を取ろうとしたので、その女子学生にこう言いました。「そのままでいいですよ。ただし、授業が始まって少したったら、私が『どうして帽子を取らないのですか』と聞きますので、気の利いた返答を用意しておいてください」

  授業が始まって数分して、その女子学生と目が合いました。どうやら自信のある顔つきです。打合せ通りの質問に、女子学生は答えました。「かぜ防止のために帽子をかぶっていました」。

  クスクスという笑いが起こりましたが、この程度で合格とするわけにはいきません。そこで、わたしは模範例を紹介しました。「ボールペンのキャップをとって字を書こうとしたとき、突然、野口先生に声をかけられました。私はハッとして顔を上げてこう言いました。かぜ防止のために帽子をかぶっていました」

  キャップ、ハット、帽子の三つに気が付いた学生たちから、拍手が起こりました。

  この女子学生は、授業が終わった後に、次のような感想文を提出しました。

  「わたしの父は、よく駄じゃれを言います。今までは、それを聞かされるのがとても嫌でした。でも、きょうの授業で、駄じゃれを言うのも言葉への感性が必要なことが分かりました。これからは、父の駄じゃれを楽しんで受け止め、私自身、もう少し楽しいしゃれが言えるようになりたいと思います。家に帰って父の駄じゃれを聞くのが楽しみです」

  授業の内容とは直接関係がなかったのですが、父と娘の人間関係改善に役立ったのは確かでした。この女子学生が、数年後、ユーモアに富んだ教師になって子どもたちを楽しませてくれることを願っています。      (元盛岡市立中野小学校長)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします