盛岡タイムス Web News 2015年  4月  28日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉225 モスタルダの扉 及川彩子


     
   
     

 イタリア暮らしも、今年で18年目。イタリア各地の名物料理にもチャレンジし、今では普段の食卓にアレンジしています。イタリア人を招いた時には、日本料理のドレッシングにオリーブ油、すしの具には、ここ北イタリア・アジアゴ名物のチーズやサラミ、生ハムなどを使ってのもてなしも慣れました。

  そんな風に、両国の味を取り入れながらも、唯一目を背けてきたのが「モスタルダ」という果物のシロップ漬け。イタリア全土で食べられていますが、北イタリアでは、マスタードやトウガラシを加えた、ピリッと甘辛い風味のモスタルダで、果物丸ごと漬けやジャム仕立てなどさまざま。日本にはない味覚かもしれません。

  モスタルダの起源は古く、14世紀にさかのぼります。当時、貴重だった砂糖の代わりに「モスタ」と呼ばれるブドウの搾り汁で、果物の保存食を作ったのが始まり。

  発酵し過ぎるのを防止するため、ブドウのつるを焼いた灰を使用するなど、まさにワイン王国ならではの手法に加え、苦味取りに、カラシを入れるようになったのだとか。

  モスタルダには、オレンジ、サクランボ、イチジク、ナシなどの果物を丸ごとシロップに漬けたものや、とろける程に煮たジャム風のものなど、種類も辛さ加減もさまざま。それに、ゆでた豚肉やチーズに添えて食べるのです。淡泊な肉やチーズの塩味とピリ辛で甘い果物が相性抜群というわけです[写真]。

  近所から頂いた手作りのモモのモスタルダに恐る恐る手を出し、味覚の変化というよりも、どこか懐かしい、とっておきの漬物に出会ったような衝撃を受けたのは先日のこと。おいしさよりうれしさ。そして「ぜひ試してみて」と薦められた通り、冷蔵庫から取り出したハムに塗っては、何枚もペロリ。

  振り返れば、受け入れ難かった相性が、突然、個性的な魅力に思える、そんな積み重ねの異国生活でした。モスタルダの扉の向こうに、また違うイタリアが見えてきそうです。


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします