盛岡タイムス Web News 2015年  5月  6日 (水)

       

■  「地産地書」の時代へ 盛岡出版事情(上) ネット社会に活字復権


     
  充実した郷土書コーナー(さわや書店上盛岡店)  
  充実した郷土書コーナー(さわや書店上盛岡店)
 

 書店に一定のスペースが確保されている「郷土の本」の棚。そこには県内の歴史や文化にまつわる本や本県ゆかりの書き手による本がそろい、地元住民や観光客の注目を集めている。中央に対する地方出版の強みとは何か。地元で出版に携わる人々に話を聞いた。(相原礼以奈)

  ■ツーワンライフ

  郷土関連の本を多く出版してきたツーワンライフ(矢巾町広宮沢)は今年4月3日で創立20周年を迎えた。代表取締役の細矢定雄さん(62)は「今までのお客さんが1人欠けても今はない」と振り返る。最初の出版は盛岡タイムス社の事業局で経験。「こんな本を出したいというお客さんは多いが、値段が高い。もっと安く、気軽に出せるようにしたかった」。編集から制作まで請け負う会社を設立し、低価格での出版を実現させている。

  細矢さんは出版を「心の商品」と表現する。「例えば盛岡の人が本を出すと、地元の本屋で手に取って読んだ人から反応があったり、新聞で紹介されたりする。これがうれしい」。自費出版は中央の出版社にも依頼できるが「地元の人の本は地元の出版社で刷って地元の本屋に置いた方が安く作れるし、多くの人に見てもらえる」と強調する。何度も打ち合わせを行い、納得のいくものを作ることにもつながるという。

  ネット社会となった現在、流通面で地域格差はないと考えている。企画出版は地域性とメッセージ性を重視し、特に全国を意識したものは「みちのく文庫」シリーズで刊行。「全国に発信する意義のあるものは出していきたい。数を多くこなせないこと、後継者の育成など課題はあるが、岩手に出版社ありと言われる会社にしていきたい」と意気込む。

  ■盛岡出版コミュニティー

  盛岡出版コミュニティー(盛岡市東安庭)の代表・栃内正行さん(60)は、長年勤めた東山堂書店を退職し、2009年に出版事業を開始した。本に関わる仕事がしたいと考え、知人の作家・松田十刻さんらと話す中で出版という結論に至ったという。現在は非常勤の松田さんとイラストレーターのナカムラユウコウさんと3人で運営している。

  最初に見本を兼ねて刊行したのが、松田さんの小説「26年2か月│啄木の生涯」。当時は3千冊刷った文庫が数カ月で売れるというヒットを記録したが、栃内さんは出版の難しさを口にする。「5千冊も作れば1冊当たりの原価が安くなるが、地元では冊数が売れないため安く作れない。もうけがないと重版も難しい。本はきちんとした原稿がないと作れず、出すまで収入がないのも大変」。

  特色ある本で成功した例もある。全国的に有名なウイスキー専門のバー・スコッチハウス(盛岡市下ノ橋町)の編著「スコッチ・オデッセイ」シリーズは改訂版、新版ともに好評。これまで約3千部を売り上げている。

  「今は出版不況で大手も苦労しており、地方のいいものを本にして全国にアピールしていく使命があると思う」と栃内さん。「全国で人気の賢治や啄木についても、地元だから分かることがある。零細出版社の本が1万部売れる場合もあり、本作りをするからにはそういう本を手掛けてみたい」と意欲を語る。

  ■博光出版

  約半世紀前から「出版」の社名を掲げてきた会社もある。博光出版(盛岡市みたけ)の代表取締役社長・佐藤博蔵さん(77)は1966年に独立して同社を立ち上げた。同社の主な業務に自分史講座がある。佐藤さんは自分史制作の草分けである福山琢磨氏の後押しを受け、87年から県内各地で自分史講座を開講。講座中に参加者が書いた作文をまとめ、年に1冊のペースで文集「孫たちへの手紙」を刊行している。

  同文集は今年で15集を数えた。東日本大震災から間もない出版となった13集では震災体験の特集を組んだ。文章に極力写真を添え、当時の様子と体験が後世に伝わるよう努めた。文集では戦争体験を伝えることも重視。自身もサハリン生まれで、郷里を追われた経験を福島の原発事故の被災者に重ねて見る。「人間がばかなことをして失ってきた歴史。『孫たちへの手紙』は、読めば読むほど抑止力になる」と力を込める。

  20年ほど前に手掛けた「ふるさとの知恵袋」(県老人クラブ連合会編)は4万5千部を売り上げた。膨大な原稿の添削には苦労したものの「やって良かったなと。出版はすごいものだと思った」と振り返る。地方の出版に携わる上で重視しているのは、人の生活の記録という。「名もない人の生活が世の中を支えている。庶民の文化として残していくことを大切に考えている」と話している。

  地方出版社の存在により、本を書くことや個人の人生を書き残すことがより身近になっている。各社代表の話で共通していたのは、地方の文化を重視し、地方だからこそ残せる本を作っていることだった。素朴ながら他にない特色を持つ「地方」が、出版界でも新たなブランド的価値を創出しつつある。


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