盛岡タイムス Web News 2015年  5月 12日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉226 及川彩子 小さな日本語教室


     
   
     

 イタリア滞在も、今年で18年目。ここアジアゴの街をはじめ、隣町ガリオの小・中学校や幼稚園から、音楽講師として声を掛けていただくようになって早15年。

  それでも日本とイタリアの感覚的狭間で、とまどうことも絶えませんが、好奇心にあふれた若者たちとの時間が、糧になっていると思うと、ささいな気苦労も吹き飛びます。

  ここ数年は、義務養育の必須科目である世界宗教の中の東洋文化を担当するなど、フル回転です。そんなある日「日本語を学びたい」という中学3年の男子生徒から電話がありました。イタリア生活で初めての事です。

  お母さんと一緒に訪ねてきたのは、背が高く痩せ型、黒縁眼鏡に、スマートなジーンズ姿のルーマニア人・アレキサンドル君、13歳(写真)。お父さんの仕事の都合で、8年前に一家でアジアゴに越して来たのだそうです。

  イタリアでも人気の日本アニメだけでなく、垣間見た日本文化や独特の雰囲気を醸し出す日本語にひかれたのだそうです。語学の専門家でない私にとって、その申し出はありがたい反面、不安だらけの決断でしたが、いざ始めてみると、アレキサンドル君は、1週間で平仮名をマスターし、片言の会話もアレヨアレヨと言う間の上達ぶり。

  イタリア髄一のベネチア大学東洋語学科から、学生用の日本語教材を購入し、「日本語文法をイタリア語で説明する」準備に大わらわの日々が始まりました。

  経済事情などで東洋に目の向く昨今、今やベネチア大学では、日本学専攻の学生は千人以上とか。語学習得には、何より忍耐と小さな知的喜びの積み重ねが支えです。ゼロから出発のアレキサンドル君ですが、私がイタリア語と格闘した時とは真逆のベクトルで、自身の扉を勢いよく開けようとしています。

  「日本語と交換に、ルーマニア語を教えて…」と言いたいところですが、今は、小さなお手伝いができることに大満足です。


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