盛岡タイムス Web News 2015年  6月 13日 (土)

       

■ 〈体感思観〉 編集局 藤澤則子 本が子どもにまく種


 
 「知らなかった世界を知ることで、子どもは幸せになれるだろうか」。5月27日、安井清子さんを迎えて開かれた盛岡児童文学研究会例会で、参加者からの質問を皆で考える場面があった。

  安井さんは、ラオス・ゲオバトゥ村に図書館を建設する活動に関わり、現在もラオス・ビエンチャンに暮らす。

  07年に開館した図書館は農作業や子守りの合間に立ち寄る子どもたちでにぎわい、女性の新たな仕事の場にもなっているが、少数民族モン族が暮らす村は少し前まで「嫁に行く女性に教育はいらない」という考えがあったという。

  参加者からの問いかけは、「本によって新しい価値観に触れることは、成長して自分の限界を知ったときに苦しむのでは」と心配する声だった。

  安井さんは、家庭の事情で図書館を去った女性たちや成長した青年たちが自分の限界を感じて悩む姿も見てきたと話し、「だからといって放っておいていいわけではない。電気がなかった村にテレビが入り、情報はどんどん入ってくる。自分の価値で物を判断できる人になるために、やはり本は必要」と答えた。

  日本はどうだろうか。情報量は比べようがないほど膨大。その選択は、インターネットを通して経験したことや友達や親との関わり合いなど実際の体験を通して判断することも多く、本だけが頼りになるわけではない。

  数年間、子どもに本を紹介する機会に恵まれたが、さまざまな場面で能力を発揮している子どもの姿に、「本から得られるものを、既に体験によって得ているのでは」と考えたこともあった。

  しかし、安井さんの話を聞いて、その子たちの一面しか見ていなかったと省みた。大会で表彰され、幼いきょうだいの面倒を見るしっかりとした姿は、その子の一面でしかない。内面にはさまざまな葛藤も抱え、これから中学高校と多感な時期に入る。

  心に落とされた「本の種」は、いつ芽吹くか分からない。心が乾いてひび割れそうになったときに、初めてその力を知ることもあるかもしれない。

  人々の生き方に添いながらに図書活動を続けている安井さんの話を日本の子どもたちにも聞いてほしいと思った。安井さん著「ラオス 山の村に図書館ができた」は福音館書店刊。


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