盛岡タイムス Web News 2015年  7月 22日 (水)

       

■  〈花林舎流庭造り―よもやま話〉37 「きれいな花の咲く木は植えないでほしい」と言われた庭


     
   
     

 今から十数年前、盛南開発区域で既存住宅の取り壊しと新築が始まったころの話です。私も新しい住宅の庭造りをひとつ依頼されました。敷地は通常の2軒分の広さがあり、半分を畑にし残り半分に住宅と庭を造る、という構想でした。発注者は当時50歳代の男性で独身、お母さんと2人暮らしの方で、お庭については次のふたつのことを要望されました。

  @ 住宅南側の主庭は自然林風にし、木蔭で薄暗くなるくらいにする。

  A きれいな花が咲く木は植えないこと。

@はともかく、Aについてはびっくり仰天しました。それまでに20カ所ほどの庭を造ったと思いますが、「きれいな花はいらない」と言われたのは初めてでした。結果を先にお話ししてしまいますが、この御希望にはうまく対応できませんでした。それまで、華やかな花の咲く木や草花、紅葉や赤い実の美しい木などを主体とする植栽をすることでお客さまに喜ばれるという経験を積んできたものですから、「きれいな花が咲かない植物」だけで魅力ある庭を造るにはどうすればいいのか見当がつかなかったのです。このころは我社の経営状況がかなり苦しく、今月は社員に給料を払えるだろうかと毎月悩みながら仕事をしていましたので、この難問をじっくりと検討してみようという精神的余裕がなかったこともうまくできなかった理由の一つですが、なぜ発注者がこのような変わった注文をしたのか、その根源を追求することを怠ったのが間違いの元でした。

  この文章を書いていてふと思い出したことがあります。発注者の方が移転前に住んでおられた家は、まるで田舎の村はずれにあるような自然林風の木立の中に隠れるように建っていて、住宅もそれにふさわしい木造の質素な住宅でした。私がそこを訪れたのは1度だけだったのですが、そのような環境で育った人であるということに注目すべきでした。そうすればきれいな花がなくても気持ちのいい懐かしい自然風の庭≠ニ言うものが想像できたかもしれなかったのです。

  南側の主庭は大体ご要望通りの雑木林になったのですが、主木のコナラが「こんなまっすぐな木でなく、少し傾いてるようなのが俺は好きなんだが」と言われ、参りました。植えたコナラはこれ以上ないほどまっすぐに伸び、枝は四方にバランス良く配置されていて実に均整の取れた姿の木だったのですが、そのために雑木林がかえってぎごちなく見えるのです。言ってみれば、山の分教場のガキどもの中に都会の良家のお坊ちゃんが紛れ込んだような姿です。こういうことも言われて初めて気が付くほど未熟でした。日本庭園の庭師さんなら常識ですね。

  このお庭には工事終了後も何度か呼ばれて手直しに通ったのですが、ここ数年ご無沙汰しています。今なら以前より少しはましな対応ができるのではないかと言う気持ちもありますので、近じか御伺いしてみようかと考えています。雑木林に青大将でもすみ付いていると面白いのですが。


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