盛岡タイムス Web News 2015年  8月 5日 (水)

       

■  〈花林舎流庭造り―よもやま話〉38 野田坂伸也 山野に自生している植物だけ植えてください


     
   華やかさはないが、どれもイキイキしていて爽やかな感じがする野生種の庭  
   華やかさはないが、どれもイキイキしていて爽やかな感じがする野生種の庭  

 前回は、庭を造る際に「きれいな花の咲く木は植えないように」と言われた話をしましたが、今回はそれとほとんど同じ内容の要請をされた庭について紹介します。

  3年前に主庭はできていたのですが、昨年「家と道路の間にある細長い空地を庭にしたいのですが、ここにはこの地方の山野に自生する植物のうち、なるべく目立たない質素な花の咲く種類を選んで植え、華やかな花の咲く植物は植えないでください」と、発注者の女性(50歳くらい?)がおっしゃるのです。このような注文は初めてでしたので(よく考えてみると前回紹介した事例に続いて2回目でしたが)ぎょっとしました。何しろ私は55歳ころに庭造りの仕事を始めてから約20年、庭に植える植物はきれいな花の咲く園芸植物か、自生種でも美しい花の咲くものを選択して庭を造るのがお客さまに喜ばれる鉄則であると信じてやってきましたから、目立つ花も咲かないような植物で魅力ある庭ができるとはとても思えなかったからです。

  これはもう初めからはっきり申し上げておかないとまずいことになりそうだ、と思い「自生種だけではご満足いただけるような庭を造る自信がありません。みすぼらしい庭になると思います」とお話ししました。しかしこの女性は「それでもかまいませんから、私の要望通りにやってください」ときっぱりと言われましたので私は「ハハー、それでは仰せのとおりに」と答えざるを得ませんでした。

  自生の植物だけ、しかもつつましい花の咲く種類限定で、何とか見られる庭を造るにはどうすればいいのでしょうか。まず、山に行って生えている植物を見てみないことには始まりません。幸い私の住んでいるところが山の中ですから、家の周りをうろつきまわれば植物はいくらでも目につきます。季節は秋の終盤で花の咲いている植物は少なかったのですが、庭に植えて何とかなりそうな植物、と言う目で見てみると、これは良さそう、これは不適、という印象が少しづつ感じられるようになってきました。植えるところがごく狭いので大きな葉の植物は雰囲気を壊してしまいますし、勢いが良すぎて威張っているようなものも似合いません。そうやって見て回っているうちに、それぞれつつましいながらに趣のある植物(「趣がある」という言葉は実に曖昧で何を言っているのか自分でもわからないのですが、他に適当な言葉が見つからないので)が数種類見つかり、晩秋にそれらを集めて植えました。しかし自信はありません。なにしろ山や野から掘ってきた植物を植えたのですから、文字通り「後は野となれ山となれ」の気持ちでした。

  長い冬が終わり春になっても怖くてなかなか行く気になれなかったのですが、ある日、思い切って見にいきました。すると、どの草木も元気いっぱいに伸びて、生き生きとした爽やかな感じの庭が出現しているではありませんか。「ヘー、こんなふうになるんだ。思ってたよりいいじゃないか」と驚くと共に、これまで質素で地味な植物の魅力について関心を持たなかったことを反省させられました。このようなめったにない注文をなさった奥様は、「私の言うとおりにしてよかったでしょう」と威張るわけでもなく、ただ喜んでくださいました。


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