盛岡タイムス Web News 2015年  8月 13日 (木)

       

■  〈風の筆〉113 沢村澄子 言問橋(ことといばし)


 先週は青森や白神山地を歩いたが、今週は東京。けさ戻って来て、これを書く。

  上京時にいつも泊まるホテル。部屋は狭いが清潔で居心地がよく、駅からわずか数分。それでも安いのはドヤガイと呼ばれるいささか治安に不穏さを含んでいる地域だからだそうで、そういわれてみれば、浮浪者らしき人もちらほら。コンビニの壁に寄りかかるようにして立っていたおばさんから目の前に紙コップを突き出されたこともあった。

  それが「金を入れろ」という意味だったと知るのは後々のことである。ホテルの隣の交番の前で、「昔、ムショで一緒だった仲間がきのう死んじまってよォ…」と、お巡りさんに話しかけているおじさんもいた。

  今回初めてその交番に入り、あるお寺への道を尋ねたのだが、そこへ出てきた二人のお巡りさんの感じがとてもよかったのである。「この辺のお巡りさんは親切ですよね。以前もムショ仲間をなくしたって泣いてるおじさんの話相手をしているのを見ました」「ホームレスみたいな人だった?いっぱいいるんだよ。この辺り」「でも救われますよ。つらい時にあんなふうに話を聞いてくれる人があると」「コミュニケーションがね、一番大事なの。この辺りでは」。

  それはこの辺りだけのことなんだろうか、と思いながら地図を見せてもらって、右方向へ歩いてここの信号を左折、言問橋を渡ってスカイツリーを目指す、と教わる。50代だろうか、厳しさとやさしさがよくよくこねられ、苦渋のエッセンスも小気味よく効いたキレイな顔のお巡りさんと、その息子のような年恰好の屈託のない明るい巡査が、いいコンビで対応してくれた。

  「どこから来たの?」と聞かれ、「岩手から」と答えたら、「へぇ。今度、夏休みに二戸へ行くんだ」「あら。避暑は期待できませんよ。盛岡もきょうは35度だって、さっきホテルのテレビが言ってました」「えー。そうなの?暑いの?向こうも?でも、座敷わらしを見るのが目的なんだよね」「まぁ。ハンサムなのに変わったシュミだわ」。お巡りさんは難しい顔になった。そこで、ちょうど入って来た次のお客さんと入れ替わったのだが、礼を言い言い交番を出ながら、このお巡りさんの美しさは造作の問題ではないと思う。

  二人は警棒だって、拳銃さえも持っているのである。実際、それを握るような緊張した場面にも、一度や二度は遭遇したことがあるのではないか。いや、たまに「ハンサムだ」なんて言い放つふざけた女に閉口することはあっても、およそお巡りさんの仕事は日々緊張の連続に違いない。それでも、大事はコミュニケーションだと言うのである。コミュニケーションで治安しようとしているのである。  

  言問橋を渡りながら、さっきのお巡りさんの顔が浮かんで、人間が真にコトトフことの大事を思った。東京大空襲の時にはこの橋の上にも、それを踏まないと向こう岸へ渡れないほどに、黒焦げの焼死体が横たわったのだという。権力、暴力、核兵器、戦争…。そんなもので、どうしてわたしたちの暮らしが守れるというのか。

  われわれという川々が幾重にも流れて交錯するこの世。その世で、その互いというものに橋を架ける、大事な仕事について思う。わたしたちよ、コミュニケーションという、コトトフという、やさしい武器を懐に持て!  (盛岡市、書家)


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