盛岡タイムス Web News 2015年  8月 26日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉450 伊藤幸子 「りんどうや」


 りんどうは生涯ひらかない覚悟
                  時実新子

 ことしのお盆は中一日、雨が降り続き暑かった。お盆用品のあれこれ、こも、はすの葉、お赤飯、煮しめなど今は昔よりも簡素化されてきたが一応しきたり通りに供える。

  花はききょう、なでしこ、おみなえしを盆花と呼び早朝山野に出かけて刈りとったものだが今は洋花も多く華やかだ。私はことし、ひまわりを4本買い、家用とお墓用に2本ずつあげた。あとはトルコききょうとりんどう、アスターを大量に、黄菊白菊とりまぜて。

  どの花も送り盆にも生き生きと水を吸い上げて元気、墓前の供え物はこもに包んで持ち帰る。昔のように川に流すわけにいかないから盆明けのゴミ集積場は満杯だ。私はことしの花はもう少しこのまま飾っておこうと決めてお墓まわりの線香の汚れ落としだけした。

  しかし、りんどうは不思議な花だ。ことし6月13日に86歳で亡くなられた高橋治さんの、りんどうのエッセーを探しあてて、味わい深い文章に新盆の氏をしのんだ。少し長いが供養と思って読んでみる。

  「恥ずかしいことを話そう。千葉の漁村生まれだから龍胆(りんどう)の花など見たこともない。金沢の旧制四高在学中ドイツ語訳読の時間に『山道に咲くリュウタンの花が』とやってしまった。同級生は笑い転げ、先生は唖然(あぜん)と私を見返された。口に出してから『しまった、源氏の紋どころ笹龍胆のあれか』ときづいたがあとの祭り。リンドウの根が漢方薬のリュウタンだから、まちがいではないと慰めてくれたのが大阪市立大学教授の宮本憲一、優しい人柄なのである」として、花の写真が鮮やかだ。

  昭和59年10月から2年間、朝日新聞日曜版に連載されたもので私の大切な一書である。続くページに「菊酒の加賀に知る人おとづれよ・許六」をあげて「加賀の国金沢の南四里鶴来町の酒屋より賣出せる名酒」の紹介がある。

  わが家にも長女の嫁ぎ先の親戚から金沢銘菓が贈られた。甘酸っぱいあんずゼリーを水餅で包んだ「水てまり」という銘の一品だ。

  当家の位牌守(いはいもり)は不精者で、あちこち失礼ばかりだが、居ながらにして神戸の時実新子さんの文学にふれ、ご主人曽我六郎さんの秋田の味覚に同意し、高橋治さんの世界にひたる。氏の曾祖母は「吾亦紅(われもこう)のような女と一緒になれば間違いない」が口ぐせだった由。花は地味だが枝分かれの仕方が潔癖でしゃんとしているからとのこと。諸事及ばず、徒長の嘆きを加えるのみである。
    (八幡平市、歌人)



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