盛岡タイムス Web News   2017年  7月  13日 (木)

       

■  気鋭の芥川賞候補 19日選考 盛岡市の沼田真佑さん「影裏」 震災の影、マイノリティーへ共感


     
  芥川賞候補の「影裏」を収録した号を手にする沼田さん  
  芥川賞候補の「影裏」を収録した号を手にする沼田さん  

 盛岡市の作家の沼田真佑さん(38)の「影裏」が、今年上半期の芥川賞候補に挙がった。1978年北海道小樽市生まれ。西南学院大卒後、福岡市で塾講師を務めながら文学を志し、今年の文學界新人賞を受賞した。「影裏」は盛岡市が舞台。性的マイノリティーや東日本大震災をテーマに折り込んで、現代人の喪失感を物語り、おのれの心理に分け入った。芥川賞には沼田さんを含む4作品がノミネートされ、選考会は東京都内で19日。作家として歩み出す心境を聞いた。

  ―福岡市から盛岡市に移り住んでの心境は。

  5年前に移り住み、今年で6年目。福岡で仕事をしていたときにも、実家が盛岡にあるので休暇を利用し遊びには来ていた。その頃に比べると印象の変化はあった。福岡は九州最大の都市で、それに比べると盛岡は静かな街という印象が強かった。だが住んでみるとそれだけではないことに気が付いた。

  ―作品に見る父と子の確執にはどのような意味があるのか。

  これまでいろいろな土地で生活してきた中で、父親が苦手だという人には数多く出会ってきた。特に都会では父権を、いとうムードが濃くなってきていると思う。作品に登場する日浅の父親は、ややエリート風に描いた。学歴を詐称したり、仕事を転々としたりする人を、そのことだけで「人間的に劣っている」と感じるような人物だ。窮状にあえぐ人に対して、「努力が足りない」のひと言で片付けてしまう人には自分も反発を感じることがある。

  ―性的マイノリティーをテーマにしたのは。

  特に理由はないのだが、判官びいきの傾向が自分にあることは言えると思う。例えば格闘技など、選手が女性だというだけで何となく応援したくなる。男まさりのパワーで闘う強い姿に心を動かされるのかもしれない。また自分は昔から物静かな人や当たりの弱い人に魅力を感じるところがあった。そういう人たちにとって現代は生きにくい世界だろうと思っている。異性愛者であれ同性愛者であれ、人間は必ずどこかで少数派に属していると思っている。ことさらに性の問題をテーマに選んだつもりはない。

  ―影響を受けた文学は。

  特にないが、アメリカ文学、フランス文学の影響は受けていると思う。最近は梅崎春生が面白い。福岡に住んでいたときも、梅崎春生の出生地が近所だったこともあり興味はあった。戦争物も面白いが、隣人との関係を描いた市井ものが今は面白い。内田百閧竦ホ川淳、深沢七郎も好きだ。海外の文学はその内容自体より、翻訳の文体そのものに影響を受けていると思う。

  ―音楽はどのようなものを聴くか。

  音楽は本当に大好きで、自分に少しでも才能があればミュージシャンを目指したかったくらい。ジャンルを問わず何でも聴く。

  ロックではニューヨークパンクが特に好き。リチャード・ヘル、トム・ヴァーライン、パティ・スミスなど。近年デヴィッド・ボウイやルー・リード、チャック・ベリーなど、敬愛するミュージシャンが次々に亡くなり本当に寂しい。ルー・リードの「ベルリン」は特に好きなアルバムだ。ロックの他にはクラシック音楽をよく聴いている。

  ―日本では町田町蔵が作家に転じて芥川賞を受賞した。

  アルバム「メシ喰うな」は格好よかった。

  ―芥川賞にノミネートされたときはどのような気持ちで受け止めたか。

  連絡をもらったときは信じられなかった、とても短い作品なので。光栄なことだが、本音を言うとかなり面はゆい感じもある。まだ一作しか小説を書いていないから。初めて買った安物のギターで有名なライブハウスのステージに立つような気分に近いと思う。


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