盛岡タイムス Web News   2017年  7月  16日 (日)

       

■  八戸から遠野へ 南部の草創にドラマ 盛岡市の松田十刻氏 気高き生涯「清心尼」を刊行 女性リーダーの時代に 史実にロマンと教訓


     
  「清心尼」について語る松田氏  
 
「清心尼」について語る松田氏
 

 盛岡タイムス社は、松田十刻著「清心尼」を刊行した。本紙に2016年1月から11月までの連載を単行本化した。南部氏の草創期に実在した女大名の故事をもとに、八戸、盛岡、遠野を結び、戦国から江戸へ歴史ロマンを紡ぎ出す。著者の松田氏は盛岡市在住。本紙など地方紙記者、編集者を経て作家に。原敬、米内光政、石川啄木などの評伝、幕末から近現代に材を取った作品が多くある。執筆の思いを聞いた。

  ―清心尼に着目したきっかけは。

  10年以上も前から関心を持ち、何回も遠野の鍋倉城跡や八戸の「史跡根城の広場」などを訪れるうちに、イマジネーションが湧いてきた。八戸氏(根城南部氏)と遠野南部氏を結ぶ歴史を盛岡の人は意外に知らない。そこに南部信直、利直を絡ませて描こうと思った。信直の娘は清心尼の母親、利直は清心尼の叔父にあたる。そこにもうひとりの英雄である北十左衛門を登場させる。利直の近侍だった北十左衛門は、遠野とも深い関係がある。

  史実に準拠した歴史小説で、登場人物はほとんどが実在している。むろん、人物造形などは筆者の想像で。大河ドラマの井伊直虎の場合、現存する資料は少ないが、根城八戸氏には国の重要文化財に指定された貴重な「八戸(遠野)南部家文書」が現存する。小説に描かれる年月日(旧暦・和暦)は古文書に基づいている。

  ―盛岡の人にとって利直は名君なのに最初は憎まれ役で出てくる。

  利直からの無理難題で主人公が遠野にやられたと言えば、悪いイメージになる。利直には二面性があるように描いた。しかし利直に言わせれば南部が生き残るための政略であり、清心尼の説得のもと根城南部氏の家臣は戦いをせずに遠野へ移ったところにポイントがある。利直と清心尼はともに南部氏の隆盛を願っており、小説でも表立ったかたちではないが、和解への過程も描かれている。

  ―秀吉や家康など天下の情勢との関わりは。

  利直も北十左衛門が大坂の陣に荷担したため、お家断絶になる危機があった。十左衛門が利直の手にかかって最期を迎えるという史実は、まさに戦国時代の象徴的な惨劇とも言えるだろう。それも小説の中に盛り込んだ。当時の南部の状況を生き生きと描きたかった。

  盛岡にとどまらず、関ケ原も東北に関係する戦いがあった。それにも南部氏、清心尼の根城南部氏も関わっている。いずれさまざまな人物が絡み、ダイナミックな歴史が伝わればいい。あくまでも史実を踏まえた歴史小説ということで、大胆な解釈や奇想天外と思うような筋書きもある。これはフィクションならではの醍醐味(だいごみ)と思って味わって欲しい。

  ―女性リーダーの時代に教訓は。

  血を流さずに遠野に来た。普通は武士なので討ち死にしてとか、一戦まじえてなどとなる。その先例が九戸政実だった。政実は時代の犠牲になったところがあり、それではいけないと、清心尼が教訓にしていたという前提にした。

  清心尼の夫も越後高田で伊達政宗の総裁のもと、城の普請に従事しているときに急病にかかり、帰国途中に死んでいる。花巻城代を務める利直の息子に清心尼の長女(養女とも)が嫁ぐが、夫はある毒殺事件の犠牲になってしまう。盛岡南部家の草創期に起こるさまざまな出来事に、いかに清心尼が関わっているかが分かる。

  母として妻として生きながら、夫に先立たれたことで根城南部の女当主となり、家臣や領民から慕われた。そのためには優れた統治力がなければならないし、領民に敬愛される女性だったからこそ、今日まで物語として語り継がれてきた。清心尼の時代に思いをはせつつ、東日本大震災などの今日的なテーマと重ね合わせ、私なりの思いも託して描いたつもり。

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  「清心尼」は四六判485n。題字は南奎雲氏、表紙絵は村井康文氏。県内主要書店で発売している。当社に注文の場合は郵便番号020―0015 岩手県盛岡市本町通3の9の33、盛岡タイムス社。定価1800円に税込み1944円と送料360円(ゆうパックライト)。問い合わせは盛岡タイムス社(電話653―3111)。


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