盛岡タイムス Web News   2017年  8月  12日 (土)

       

■ 〈体感思観〉馬場恵 スイッチひとつで広がる世界



 ICTの発達で、重度障害者のコミュニケーションの可能性が広がっている。先日、福祉情報工学が専門の島根大助教・伊藤史人さん(42)が盛岡市内で開いた「視線入力」のワークショップを取材した。

  視線入力は、パソコン画面の文字やマークを見詰めると、それが入力できる技術。目の動きだけで周囲の人と意思疎通でき、メールを書いたり、オンラインショップで買い物したりすることが可能だ。重い障害で体が動かない人や筋肉を動かす機能が失われるALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者らの生活の質の向上が期待できる。

  ただ、視線入力を使いこなすためには、ある程度の訓練が必要。練習を続けてもらう工夫が重要で、ゲームソフトによる訓練も有効な手段という。この日、体験したのは、画面に現れる風船や飛行機を見詰めることによって打ち落とすゲーム。視線を感知する的を広くし、成功率を上げているため、初心者でも視線入力の感覚が味わえる。風船が割れると手元のクッションがブルブル震えて衝撃も感じられ、飽きさせない。「コミュニケーションへの期待が大きい分、うまくいかないと落胆も大きい。こうしたゲームから始めて、やる気を失わせないことが大事」という伊藤さんの言葉に納得した。

  伊藤さんによると、視線入力以外にも、顔の表面の変化をセンサーで読み取り、スイッチを押すことができる技術など、さまざまなコミュニケーション支援装置の研究が進められている。寝たきりで体がほとんど動かない障害者が、スイッチ一つで世界中の人と交流したり、仕事を得たりする例もある。重度障害の子どもの意思伝達能力を伸ばす教育手段としても注目を集めているという。

  こうした装置の情報に触れる機会はまだ少ないが、重度障害者と直接、関わる家族や支援者はもちろん、多くの市民が関心を寄せれば、生きる喜びを実感できる人が、さらに増えるはずだ。

  伊藤さんは岩手大工学部、県立大ソフトウエア情報学研究科卒。20年ほど前、初めて会ったときは岩手大の学生で、寝たきりの高校生のホームページ開設をボランティアで手伝っていた。大学卒業後、いったん企業に就職したが、「社会に役立つ研究がしたい」と大学院に進学。一橋大などを経て、現在は盛岡に家族を残して島根大に単身赴任している。

  工学分野における障害者のコミュニケーション支援は、決して日の当たる研究とは言えないそうだが、その意義を強く感じて全国を飛び回る。活躍を心から応援したい。


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