2019年4月の天窓


 2019年  4月  18日  ― 子育て世代の10連休の悩み ―
 オリックスグループの第3回働くパパママ川柳で「10連休 預け先無し 金も無し」が大賞に選ばれた。改元に伴う今年ならではの旬の話題を盛り込んだ作品だ
▼あと10日ほどで10連休が始まる。仕事や学校が丸々お休みになる国民には、すでに計画を立てて待ち遠しいことだろう。改元という節目と私的な楽しみの重奏で、高揚感も次第に高まってくるか
▼半面、自明なのは行楽・レジャーを支える仕事があること。今回の10連休に限らず、暦の休日とは無関係に仕事している人がいて社会経済が回っている。公共交通機関、商業などサービス業などが代表例。学校の部活動も練習だけでなく、大会や試合が組まれる。また医療などもしかり
▼休日が増えたため事業所は人のやりくりを一層悩んでいるに違いない。24時間営業のコンビニも大変さが増していることだろう。前述川柳の大賞からは、川柳と笑えない切実さが浮かび上がってくる。幼児を育てている家庭は、連休中の出勤日に希望通り、わが子の保育を頼めるのか、あるいは優先して休日とできる職場の支え合い態勢ができるのか。まだ見通したたない家庭があるかもしれない
▼国は休みを増やせば国民が喜ぶと考えただけではあるまい。当然、就労課題も承知で決めたのだろう。10連休過労死などの起きぬよう。

 2019年  4月  17日  ― 89歳穐吉敏子の終わらない旅 ―
 ジャズ・ピアニスト穐吉敏子さんが体調を崩して緊急入院し、途中でキャンセルになった昨年の日本ツアー。できなかった5都市を回るツアーが今年組まれ10日には盛岡市民文化ホールでコンサートがあった。89歳の現役レジェンド。正味90分ほどをソロで演奏し快復した体調を喜ばしく思った
▼昨年4月17日、米寿記念の88歳88鍵ソロコンサートが同じ会場で組まれていた。開演時間に舞台へ現れたのは開運橋のジョニー店主の照井顕さん。来場者に事情を説明し、何人かが急きょ演奏し幕を引いた
▼一年越しで同じ会場、客席に着き、元気な穐吉さんが出てくることを祈る思いで待っていると黒いドレスの穐吉さんが登場。演奏が始まるや、直前まで心配していたことも忘れピアノ演奏に聴き入った
▼ステージは2部構成で第1部は穐吉さん自作の代名詞「ロング・イエロー・ロード」、最も感化されたバド・パウエルの曲や渋いスタンダードと、長い演奏家生活を短時間でたどるような構成。第2部は穐吉さんいわく懐メロプログラムで「A列車で行こう」「浮気はやめた」「ポルカ・ドッツ・アンド・ビームス」など、スタンダード中心に違う曲想を次々と弾いた
▼ピアノには最大108鍵の仕様もある。終わりなき旅―88鍵を超えた先もロング・ロードを進んでほしい。

 2019年  4月  16日  ― かたずを飲んでかたづの ―
 直木賞作家の中島京子さん原作で、漫画家の里中満智子さん描く「かたづの!」(集英社)が出版された。
▼南部藩の草創期に八戸から遠野に国替えした女領主の清心尼が主人公。八戸市内の書店ではすごい売れ行きだそう。盛岡市内の書店でも平積みになっている。
▼清心尼については本紙も盛岡市の作家の松田十刻氏の作品を連載し、単行本化した。「かたづの!」と松田作品の違いは、憎まれ役の南部利直の描き方。前者は利直を魔物に描き、権勢を満たすためなら身内を刃に掛け、平気で毒を盛る。
▼松田作品の利直は、清心尼一党と骨肉の争いを繰り広げつつ、陰では「自慢のめいじゃ」と高く買っている。清心尼の知略と胆力に南部の血筋を見てとり、あえて鬼となって女領主ながらの試練を与え、遠野に藩の太い支柱を立てようとした。やがて清心尼も利直が傑出した藩主であることに気付く。両作品を読み比べると面白いが、ここに少女漫画の巨匠である里中さんの絵も加われば、とても想像力が膨らむ。
▼2027年には清心尼の一族郎党が八戸から遠野に移って400年になる。前も書いたが、そのとき八戸、盛岡、紫波、遠野の4市町で何かできるよう、そろそろ構想してみたい。里中漫画はその助けになる。コマ運びにかたずを飲んで読み切れます。

 2019年  4月  14日  ― 改元知らぬ石川啄木 ―
 盛岡市渋民の宝徳寺できのう第108回啄木忌が営まれ、天才歌人がしのばれた
▼啄木は明治45年4月13日に亡くなった。この年7月30日、元号が大正になる。26歳で早世した啄木は明治のみに生き、改元の立ち会いはかなわなかった。大正デモクラシー、大正ロマンと語られる時代に啄木が創作していたならと思わずにいられない。何より貧しさや病に見舞われていた啄木に新しい時代の空気を吸ってほしかった
▼「かの旅の汽車の車掌がゆくりなくも我が中学の友なりしかな」。渋民駅に「啄木のふるさと」の副駅名が導入され、命日に駅で記念セレモニーが行われた。2月に啄木が縁で東京都文京区と提携した友好都市の記念事業の一環で、背景には渋民地区自治会連絡協議会の要望があった
▼渋民駅は1950年開業。啄木が帰郷や旅立ちで利用したのは好摩駅で、ゆかりを残す。「霧ふかき好摩の原の停車場の朝の虫こそすずろなりけれ」と詠んでいる。県外の啄木ファンには好摩ではなく故郷としての渋民(村)にこそ、なじみ深いので、渋民駅の副駅名に落ち着いたのか。だが、好摩駅の知名度も上がり両駅間の車窓の風景を見てもらいたい
▼松任谷由実さんの曲「緑の地に舞い降りて」には空港のある花巻ではなく盛岡が出てくる。令和の啄木が両得になれば良い。

 2019年  4月  13日  ― ご当地時代≠フ先取り ―
ズーズー弁で語られる医事漫談を少年のころ面白おかしく見た。白衣のケーシー高峰さんのお色気ある漫談は、どこか乾いてあっけらかんとしていた。今なら倫理コードからテレビで見られない芸か
▼平成に入って地方の時代が唱えられ、ご当地グルメをはじめ地方色を売りとする戦略が当たり前になった。テレビのバラエティー番組も地方にスポットを当てる企画が人気あるようだ。だが、昭和50年代ごろまでは、地方に劣等感が根強かったのも事実。東北地方もかなり強いと感じながら東北で育った
▼東北人が寡黙で口数が少ないと言われたのは、上京した東北出身者がお国なまりを恥ずかしいと思い込まされていた≠ケいではなかったか。大阪弁のインパクトが大きい漫才や漫談の世界で、山形弁もろ出しの漫談は異彩を放っていたと今にして思う。人気の半面で残念だったのは、ズーズー弁イコール東北弁の認識が全国に広まったこと。方言はもっと地域が細分化されて使われ、雑な分類になるが山形弁や津軽弁、福島弁などは盛岡の人にとって別物の方言。逆もまた真なり
▼メディアにはお国なまりで語るタレントが多数出ている。その多様性が自然になった現況は社会の成熟といえようか。ケーシーさんはご当地℃梠繧先取った。惜別にグラッチェと送りたい。

 2019年  4月  12日  ― 桜田五輪大臣の変 ―
 桜田義孝五輪大臣が盛岡市地元の衆院議員の高橋比奈子さんを、「復興より大事」とパーティーの席で持ち上げ、大失言で辞任した。どんな人か調べると、千葉8区選出で柏市出身69歳。明治大夜間部卒、若くして建設会社を起こし、千葉県議から衆院7期。
▼たたき上げで、世襲議員が多い自民党の中じゃ苦労人だ。建設業の安全対策などに功労があり、東日本大震災では千葉県も被災したので、復興軽視は本心でないかもしれないが、政治家としての資質がひどすぎ。失言迷言のオンパレードで、世界の祭典の担当相は最も不適任だった。
▼こんなことでは国際的信頼も失われる。何だか最初からボタンの掛け違い、準備にぎくしゃくしている東京五輪だから、安全にそつなくやれる人でなければ。内閣改造時の下馬評を見ると、やはり総裁選にまつわる派閥人事だったようだ。
▼大臣ポストには前任の鈴木俊一さんが返り咲いた。父の善幸さんは前回1964年大会の際に官房長官だったので、親子2代の信念で成功させてほしい。
▼忖度(そんたく)の塚田発言から、口の軽い人が多く舌禍による政変が起こりかねないと思っていたら、やはり今回「桜田の変」となった。失言のたび言い直す件で、名残雪の東京に散らざるをえなかった。安倍総理の任命責任は重い。

 2019年  4月  11日  ― 移動販売の時代来たる ―
 今年は「男はつらいよ」の第1作から50周年にあたり、山田洋次監督が新作を公開する。どんな映像で渥美清に再会できるか楽しみだが、心配なのは今の若い人、寅さんのなりわいを見てもピンとこないのでは。昔ながらの露天商をあまり見かけなくなった。
▼JA新いわてが車両型の金融窓口を導入し、雫石町のまちさぽ雫石がJTの助成でオーダー制の移動販売を始める。一関市では移動型の投票所を運用する。
▼通販経済の浸食により、お店は大小問わず厳しい状況に置かれている。これからは消費者が車で出向くより、店が車で顧客のところに行く業態が伸びるのではないか。やはり衣料は見て選びたい、医薬品は相談して買いたいだろう。県内には書店がない町村が多い。移動販売に需要のある品目はたくさんありそうだ。
▼行商のトラックがコンボイを組み、整備された三陸道や地域高規格道を通じて山間や漁村を回れば便利。高齢化社会でもう自動車に乗れない、公共交通が不便で困るお年寄りは増加する。移動販売の車両が集まり、空き地に定期的に市が立つようになれば人口減少に歯止めがかかる。
▼コンビニや全国チェーンの看板のように、ブランド化して展開したら。その名も「風店のトラック」。車寅次郎の顔の絵柄を商標に、あの節回しをCMに。

 2019年  4月  10日  ― 天皇皇后両陛下のご結婚60年 ―
 60年前、皇太子明仁親王と正田美智子さまがご成婚なされた。今上天皇と皇后さまはきょうダイヤモンド婚の記念日となられる。敗戦で天皇が象徴となり、戦中と異なる皇室のあるべき姿の実現に努められる中、民間の美智子さまを皇室にお迎えし、開かれた皇室の将来が文字通り大きく開けたというべき出来事だった
▼昭和天皇は在位の途中で象徴天皇となる難しさを経験なされたが、完結の答えなどない中で天皇を継承された陛下は、象徴としてのありようを絶えず自問され公務に当たられてきたと思われる。それはお一人だけでなく、皇后さまとの共同作業だったと理解する。お二人はご公務で国民にお姿を見せられるときの車の乗り降りなど、ふとした瞬間に自然に手を貸されるなどの関係は、多くの国民の尊敬につながった
▼ご夫妻は子育てにおいても伝統を尊重する一方で新たな価値観を注ぎ込んだ。5月1日に即位される皇太子殿下、秋篠宮さまにはご夫妻の影響がうかがわれる。国民の抱く親しみは平成になって両陛下をはじめ皇室の肉声が多くはメディアを通じてではあるが、国民に伝わる機会が増えたこともあろう
▼両陛下の歩んできた象徴天皇のお姿を多くの国民が受け入れている。皇太子ご夫妻はどのような象徴天皇をと考えられているのだろうか。

 2019年  4月  9日  ― 舌禍の身体検査を ―
 自民党の塚田一郎参院議員が、道路事業の安倍・麻生への忖度(そんたく)発言で国土交通副大臣を更迭された。
▼話の録音をテレビで聞けば明らかに、ウケ狙いのイントネーションだ。同世代なので分かる。忖度をまるで流行語に使ってみせたのか。「東日本大震災で東北自動車道は健全に動いた」とか、とんちんかんなことばかり口にする桜田五輪大臣にしろ、政権の舌禍が絶えない。
▼塚田議員が取り上げた下関北九州道路は関門地域の悲願だった。安倍・麻生の地元でなくとも、西日本豪雨に改めて必要が叫ばれたそう。福岡県知事選候補の足も引っ張ったろう。野党は安倍総理の任命責任を問い、統一地方選に影響が出た。
▼閣僚選びには金銭や私生活のスキャンダルの他、国語力やボキャブラリーの品位も、いわゆる身体検査がいる。桜田大臣など、堅実にやっていた鈴木俊一代議士の後釜があれでは。東京五輪は来年に差し迫り、これぞ適材適所でそつない人を当てねばならない。党内力学でばかりポストを回すとこうなる。
▼塚田発言に戻れば、会場のムードでどうしてもウケたいと思ったなら、どっちみちつまんない冗談だが、「玄界灘の限界を超えたい」くらいでよかったのに。まあ、そんたなくだらないこと無理にしゃべらなくてもよがんすよ。

 2019年  4月  8日  ― 残り少ない平成の日々 ―
 3月31日にはSNSで「きょうが平成最後」の誤解が飛び交った。新元号の発表が改元の1カ月前というのが、不慣れなゆえに起きたのだろう。大昔なら天皇の代替わりでなくとも改元はあったが、近代からの日本は大正、昭和、平成へ天皇の崩御と即位によって改元され、勘違いの挟まれる状況にはなかった。生前退位は近代日本が初めて体験する
▼平成への改元しか経験していないが、崩御という哀悼と自粛を伴う現実を経た平成の始まりの雰囲気とは、今回まったく違う。退位に寂寥(せきりょう)の感は否めなくとも、長きにわたって皇后さまと象徴天皇をつとめられてきた陛下への感謝と退位後に平穏な生活を送られるようにとのねぎらいの思いも国民の中にあるだろう。それらが新天皇即位と合わさり慶祝ムードを広げているのではないか
▼発表直後から巷間(こうかん)では「令和」の文字に多く遭遇するようになった。令和が新しい時代として、未来への期待感を伴い書かれ、語られる
▼一方、「平成」は改元への高揚感もあって平静さが失われたわけでもなかろうが、話題になる頻度が下がった。とはいえ、本当の平成最後の日がさらに近付くにつれ、頻度が上がってくるだろう。平成最後の冠もまた。1カ月を切った平成との残された日々をかみしめたい。

 2019年  4月  7日  ― 氷の首相の迷走 ―
 盛岡舞台の名作「馬」監督の山本嘉次郎は、戦意高揚に「ハワイ・マレー沖海戦」を撮った。太平洋で開戦3日後のマレー沖に、英国が不沈を誇る戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」が日本の海軍機に沈められるとき、乗組員たちは「ドイツの飛行機にやられた」と言い張った。
▼あり得ぬ脅威を信じ込む集団心理のなせるわざとして、例に出される。英国が日本ごときに負けたとは到底、認められるものではなかった。しかし艦隊率いるトーマス・フィリップス提督は、事態を正確に見抜いていた。
▼傾く艦上に「よく戦いたり」と傷ついた将兵をねぎらい、「日本機は性能、技量、闘志すべて恐るべし。帰ったら負けるな。敗軍の将として自分は艦に残る」。ジョン・ブルのリーダーかくあるべし。
▼戦にあらず死ぬことはないが、英国のメイ首相。EU離脱の混迷は、わが国毎度の決められぬ政治よりひどい。合意なき離脱で大混乱に陥っても日本への影響は限定的だろう。心配なのは英国の転落を先途に、「さて先進7カ国のたそがれ」と、よからぬ勢力が民主主義と自由経済の世界を切り崩しにかかること。
▼離脱が間違いと悟ったなら、国民にUKの進路が本当にそれでいいか、自分の破滅賭けでも問い直すべしと思うが、つるつる滑り「氷の首相」は迷走するばかりだ。

 2019年  4月  6日  ― 国土交通副大臣の忖度発言 ―
 森友・加計≠フ再燃かと思いきや、新元号発表当日に塚田一郎国土交通副大臣の口から出た「忖度(そんたく)」だった。福岡県知事選の集会で、下関北九州道路の事業化調査に安倍首相と麻生副総理の地元であり「国直轄調査に引き上げた。私が忖度した」と耳を疑う発言をし問題となり、辞任した
▼国民的騒動となった忖度を持ち出し利益誘導を疑われかねない発言をしてしまうのは、物忘れがひどいのか政治家の自覚の欠如か。巨額の公共事業を所管する国交省なら誤解や疑義を招かぬよう人一倍、留意しなければならぬはずが、まるで権力の誇示に映る
▼巨費の公共事業では、かつて特に地方で国会議員の名を冠した○○道路などと別称を付けられることが多々あった。田中角栄元首相も批判の的となったが、高速道路や整備新幹線でもルートや停車駅の決定などには有力議員の名前がもっともらしく上がった。贈収賄という犯罪は論外だが、地方の声を聞き地方に事業をもたらす政治家は地元民にとり頼もしい存在だった
▼統一地方選の最中だが夏には参院選がある。岩手も夏から秋に知事選など選挙が集中する。時に現職候補は「○○を実現しました」と自身の実績や功績との訴えもするが「○○が実現しました」と一歩引く方が、疑義を持たれぬ当世かもしれない。

 2019年  4月  5日  ― 皇太子殿下のシュプール ―
 お上にあまりに畏れ多く決してだじゃれなどではないのだが、皇太子殿下が5月に即位し、令和の天皇陛下になられれば、「いわて」の3文字をたてまつる。皇太子妃雅子さまは皇后陛下となられ、曽祖父の山屋他人の出身地として盛岡、岩手は皇室とのゆかりが一層深まるだろう。
▼皇太子殿下の取材で大変などじを踏んだことがある。平成初め頃に雫石のスキー場で滑られ、宮内庁記者団とともに写真を撮った。当時フィルムの一眼レフオートフォーカスが出たばかり。初期の機種で耐水性が低かったのか、雪中に落としたら濡れて故障した。
▼真っ青になり、慌ててホテルの売店に走り「写ルンです」を買って撮影した。宮内庁付きの皆さんには、「殿下をそれで取材するの」と言われたが、「雪に滑ってう、つるんです」なんて笑ってごまかした。現像プリントすると白銀の露光に助けられたのか、壊れた愛機で写すよりきれいに撮れていた。
▼皇室には、われわれにあずかり知れぬ大変な苦労がおありになる。昭和天皇が終戦後、九州の雲仙に登られた。「あれが阿蘇でございます」との侍従長の説明に、「あ、そう」と答えられ、人間天皇のユーモアとして国民に広まった。
▼皇太子殿下にも令和の御代になって、ご夫妻でまた雪の岩手山をご覧になっていただきたい。

 2019年  4月  4日  ― 謎だらけの縄文時代 ―
 岡本太郎なら縄文式土器との初対面に「なんだこれは」と驚嘆の声を上げただろう。岡本の現代アートには縄文の魂ではないかと思わせる作品が多い。巨匠を揺さぶったのが縄文人の造形に対する無比の執着ではなかったか。元号どころか文字誕生以前の縄文メッセージを岡本は受信したと思わずにいられない
▼ところが、弥生式土器は一転、表面の表情も造形も大人しくなり機能性が優先された印象が強い。岡本の心は揺さぶられた様子はない
▼映画「縄文にハマる人々」には岡本ほど有名ではなくても、縄文文化に取りつかれた人々が多数出演する。それぞれの視点で執着心と好奇心を持ち、謎だらけの縄文や縄文人、土器や土偶、遺跡に近付こうとしている。では、弥生時代へはどうか。専門分野とする研究者や学者はいても、縄文のように素人を熱中させるような訴求力は持ち合わせていないのが現状だ
▼映画に出てくる人を見て気が付いたのは、縄文への関心や解釈が極論すれば十人十色なこと。特に縄文の種々への解釈が自由で、専門家でなくても許されるのが人を引きつける要因の一つ。謎だらけなことが発想を豊かにする。一つの正解を求めるのとは違う学びも人間の根源的な探究意欲。子どもの発想力や創造性を伸ばすには縄文に触れさせるのが一案かもしれぬ。

 2019年  4月  3日  ― 令和の岩手 ―
 「令和」は県民にとって良い元号だ。「れいわ」「いわて」とつながる。明治、大正、昭和、平成より本県に郷土色のある名前ではないか。
▼東洋思想的な配慮があったなら周到だ。元号に初めて中国の古典でなく、万葉集を出典に求めた。今は日中関係が微妙なので中国側は、聖徳太子と煬帝の「日出る処の天子」式に、いわゆる「華夷秩序」における歴史の挑戦と受け取るおそれがある。
▼そこをきちんとたしなめるため、梅の花を持ちだしたなら、なかなかの深慮である。梅は中華の花だから、「漢字と儒教のルーツは忘れていませんよ」と、和魂(にぎたま)のメッセージが伝わり暗黙のうちに向こうも了解するだろう。台湾の国花でもあり、きっと香港とシンガポールの人も一緒。新元号に紅梅が香れば、漢民族は日本に親しみを持ち直してくれるかもしれない。
▼中国や北朝鮮や韓国の話になると普段むちゃくちゃばかり書くくせにと言われそうだが、やはりこういうときは同文同種のよしみ、漢字文化の母国にそっと礼は尽くしておいた方が良い。そこを習近平さんあたりもうまく分かってもらいたい。
▼せっかくだから、上海と台湾から定期便が来るようになった花巻空港に梅と桜の木を植えよう。観光シーズンに続けてほころび、令和に岩手のもてなしが咲く。

 2019年  4月  2日  ― 新しい元号は「令和」に ―
 5月1日の改元を前に新元号が「令和」と1日発表された。645年の「大化」から数え、公式には248番目の元号になるという。安倍首相は発表直後の記者会見で「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味が込められている」と説いた
▼出典は現存するわが国最古の歌集「万葉集」の梅の花、32首の序文にある「初春の令月にして、木淑(きよ)く風和らぎ…」という。漢籍ではなく国書からの由来は初めて。東アジア圏特有の元号は発祥の中国でも採用されなくなった。そんな現在の事情も考えれば国書由来もさもありなんか
▼奈良時代末期に編集された「万葉集」は漢字表記されている。だが、和歌には大和言葉のリズムが重要になり、漢字の意味を離れ音訓を借りて表記する工夫がなされた。この1文字1音節の表音式の使い方が万葉仮名と呼ばれる。渡来した漢字を日本に適合させ、片仮名や平仮名という固有の文字をやがて編み出していった
▼仮に邪馬台国の頃からの日本の歴史の長さから見れば、万葉仮名の使用はわずかな時間。どの元号も歴史の歳月から言えば短いのだろうが、一人間の寿命に照らせば短くはない。安倍首相は会見で「希望に満ちた新しい時代」を国民と切り開く決意を示した。一元号に限らず、希望に満ちた生涯でありたい。

 2019年  4月  1日  ― 元号のイフ ―
 大正から昭和に改元する間際「光文」という元号案が新聞に報じられた。大御心(おおみこころ)に対していわゆる新聞辞令は不敬なりと政府が怒り、急きょ昭和に差し替えた、完全な誤報とか諸説ある。
▼もし光文が採用されていたら。「光文ひとけた」と呼ばれる一世代を形作ったろうか。東北農村の窮乏に憤った青年将校は「光文維新」を叫び雪をテロの血に染めたか。光文20年8月15日正午のラジオは。庶民は東京五輪や大阪万博に「光文元禄」を謳歌したのか。盛岡バスセンターは「光文レトロ」の名所として惜しまれ…
▼想像はつきないが、元号は時代精神に深く刻まれる。明治は明朗はつらつ、大正は大らかに、昭和は太陽に召される字形の通り、民族の生滅を乗り越え日本が発展する時代だった。
▼平成を端的に言えば、伸び悩んだが何とか平和が成った時代として記憶されるのでは。隣国には脅かされても、諸国を巻き込む戦が起きず良かった。政治経済はひどく混迷したが、学術文化で堂々たる大国となったのは、国民の努力もさりながら、今上陛下のご仁徳に感謝せねばなるまい。
▼新元号はきょう発表される。どんな時代になるのか、誰もがまさに平静ではいられないだろう。平成の平和はしっかり引き継がれるよう、吉祥に満ちた2文字となるよう願う。

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