知り合いの自転車マニアに「ぼくの自転車はもう10年目になるよ」と話したら、「新しいじゃないか」といわれた。彼はヴィンテージ・ロードスポーツと呼ばれる名車に乗っているのだった。1970年代に買ったそうだから、もう30年も前の自転車だ。
「新型車と比べたら何かと不器用な自転車だけど、風格があるだろ。一個の芸術品として鑑賞に耐えるところが、現代の自転車にはない魅力だね」
自慢の自転車なのである。
「だけど、飾っておいちゃ駄目なんだ。ちゃんと乗ってやってこそ、自転車は輝くからね」
彼の話を聞いていて、古い建物の保存活用を連想した。
市内清水町に残る旧石井県令私邸(盛岡市歴史的建造物指定)は明治19年ころに建てられた盛岡最古の洋館だ。ここで「千葉勉絵画館」と題する個展が6月18日までひらかれている。ポタリング(自転車散歩)がてら立ち寄ると、千葉画伯に案内をしていただくという幸運に恵まれた。
靉光(あいみつ)の影響下にあった抽象画から、最近の作品まで、風景画や静物画など充実した展示内容だった。まるでここに何十年も飾られていたような印象を与える作品もあった。これは美術館では決して味わえない雰囲気だろう。また、旧盛岡劇場など昔の洋風建物の絵を展示しているのも、この場に合わせてのことだ。
ユニークなのは屋根裏につくられた仮想アトリエだ。そこで本当に制作をしているものと勘違いをする来館者もいるという。それだけ真に迫っている。千葉さんは洋館にあこがれていたとうかがったが、こういうところにもこの個展に対する思い入れがあらわれている。
ぼくたちは「絵は美術館で観(み)るもの」という固定観念にとらわれがちだが、「千葉勉絵画館」は旧石井県令私邸でなければ実現できない個展である。訪れた人々はきっと深い印象を受けるに違いない。
旧石井県令私邸の近くには、同時期に建てられた和風建築と庭園からなる南昌荘があり、ここもさまざまな展覧会や集会などに利用されている。
古い建物の保存といえば、博物館にすることが常套(とう)手段だった。それでは建物は輝かない。後生大事に仕舞いこむのではなく、丁寧に使うことによって、建物に輝きを与えるという手法がこれからの主流になるだろう。
話は自転車に戻るけれど、いつかぼくも古い自転車を手に入れ、こつこつと手入れをして乗ってみたいと思っている。どこかに捨てるに捨てられずに困っているロードスポーツなどないものだろうか。(作家、盛岡市在住)
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