2009年 3月 29日 (日)

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉102 御月山(おつきやま 954メートル)

     
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  早春の山々は輝きを増し、どこもかしこも眩いばかりだ。ヒダというヒダが浮きたち、稜線のうねりを剥(む)きだしている。山の骨格は炙りだされ、ちょっとした小さな窪みや傾斜さえ難なく見定められる。

  「あのトンガリコーンは、なに?」安比高原スキー場ゲレンデから、小ぶりだが鋭く天を突く頂が目についた。七時雨山の南西7・5キロメートルに位置する「御月山」である。御月山には整備された登路がない。だから、あの先端に立つなら、固くしまった雪がササをおさえこむ残雪期をねらうのが一番である。

  なぜなら夏場は、北側の林道からヤブを漕がねばならず、山頂近くになると剣の歯渡りのような縁に上がって忌まわしい汗もかく。こんど御月山へ登るなら、太ったセッピが安定する早春にしよう…と、私はこころに決めた。

  2度目のチャレンジは、安比高原ゴルフ場のオープン前、3月の末。ところどころに雪が残り、フキノトウが陽だまりにほっこり芽吹き、山の雪はいい塩梅に締まっている。ハウスに車を止め、グリーンの芝を奥の東屋まで20分進む。ゴルフ場上部の標高は560メートルに達していて、人気の失せた竜ケ森スキー場の白い斜面が、面白いように遠のいていく。

  東屋でワカンを履き北東斜面へ進入、ステップをきかせて692・4メートルから延びた尾根に上がる。出現したピークは火箱山、眼下の谷は小松尾沢であろう。

  尾根をしばらく詰めてから方向を北にとり、トラバースぎみに鞍部を通過して、なおも北東に進むと土塁にぶつかる。土塁を東へ2キロたどって山頂直下だ。天気が良くて3時間、残り30メートルの急登をしのいで御月山に立つ。
 
  むかし、盛岡城下の夕顔瀬惣門跡から滝沢分レ−寺田−七時雨山−荒屋新町−田山−大館−鹿角、と「鹿角街道」で結んだ。鹿角と盛岡をはばむ山と谷。中でも七時雨山と御月山の稜線越えは、命懸けの危険地帯であった。先ごろ合併して八幡平市となった安代町・西根町・松尾村の3境にあたる御月山は、越えねばならぬものの象徴だったに違いない。

  七時雨山に車之走峠(くるまのはしりとうげ)、二ツ森には大鶴間峠があり、御月山の西には深沢峠がある。このほか、間道や枝道などいくつかの経路があったらしく、この辺りで尖(とん)がりお月さんを仰いだ旅人は数知れない。

  なにせ、三角点の設置もままならぬ御月山のピークは細い、狭い、切り立つ。そんなピークに長居は無用。両足でたつ幅もなければ目もくらむ。

  ン、ここらで一服気を休めたい?なればこそ15分先に火箱山が控えている。

(版画家、盛岡市在住)

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