2009年 7月 7日 (火)

       

■ 〈夜空に夢見る星めぐり〉236 八木淳一郎 黒い太陽を求めて

 来る7月22日はアジア東部のインドから中国、そしてわが国のトカラ列島や硫黄島を通り、南太平洋、ハワイに至るまでの細長い帯状の地域で皆既日食が見られる日です。北海道から九州までの広い範囲では半分位も欠ける部分日食となり、盛岡では午前11時10分ごろに最大で約60%が欠けて見られます。食は午前10時少し前に始まり、終わりは午後0時20分過ぎと予想されていて、太陽面の右上の方向から少しずつ欠け始め、左下の方向に向かって進行していきます。

  ところで皆既日食は、同じものが18年と11日前後で繰り返し起こることが紀元前の大昔に既に解明されていました。これをサロス周期と呼ぶのですが、今回の日食は1991年7月12日にハワイからメキシコ、南米にかけて起こったもののサロスです。このときも日本から大勢の人たちがハワイやメキシコをめぎしました。ハワイではごく一部を除いて悪天候のため見ることができませんでしたが、私はこのときメキシコのピラミッドの遺跡で有名なソチカルコという所を選び、運良く皆既日食を見ることが出来ました。

  このときの写真やビデオ撮影に使用した望遠鏡は携行に便利な小型軽量の、それでいてレンズの性能が優れたものでした。これはエベレスト登頂を果たし、下山途中で遭難した二上(ふたがみ)さんという方からいただいたものでした。生前、二上さんがこう話していたのが印象に残っています。「ヒマラヤの奥深くで満天の星空を見上げているとき、人工衛星が飛んでいるのを目にすることがある。大自然そのものの真っ只中に居るというのに。すると、何とも言えず不思議な気持ちになるんだ…」。

  日食当日の早朝、メキシコシティーを出発し、100キロほど南のソチカルコに向かうバスのワイパーは休むことなく動き続けていました。だめかもしれない。自分にそう言い聞かせるしかないほど厚い雨雲におおわれたメキシコの空。雨季の時期に入っていることを思うと、奇跡でも起きない限り仕方ないことです。ところが、目的地への半分も過ぎたあたりから、南の空が少しずつ明るくなってくるではありませんか!ソチカルコと書かれた案内板を目にするころ、雲よりも青空の方がまさっていました。祈るような気持ちでした。気が付くと、"二上さん、晴れさせて…"。二上さんが空の上から見守ってくれているように思えて空に向かってつぶやいていました。ピラミッドの上に二上さんの望遠鏡とカメラをセットして待ち構える私どもの頭上には、もはや雲の切れ端さえ無くなっていて、間も無く日食を迎える太陽の強烈な光だけがありました。澄んだ青空の中に二上さんの顔がぱっと現れました。身体が震え、目に熱いものがこみ上げてきたのを今でも忘れることができません。

  ピラミッドの下、はるか向こうでは、真っ白な民族衣装に身を包んだ大勢のメキシコの人たちの歌と踊りが、太鼓や笛の音とともに繰り広げられています。ここメキシコは、まさしく太陽の国でした。
(つづく)

(盛岡天文同好会会員)



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