2009年 7月 22日 (水)

       

■ 〈夜空に夢見る星めぐり〉236 八木淳一郎 黒い太陽を求めてその2

 1991年7月12日。メキシコシティから約100`南のソチカルコのピラミッドの遺跡の上には、雲一つない抜けるような青空がどこまでも広がっています。

  ピラミッドの一つにはメキシコのテレビ局が、また別の場所にはメキシコ大統領の一行が。皆既日食の始まりを今や遅しと待ちわびる人々で遺跡の地はあふれかえっていました。

  こんなXIPのご一行さえ来ているのですから兵士や地元警察官の姿も少なくありません。期待と興奮、そしてちょっとした緊張感も漂っています。

  赤道儀と呼ばれる太陽を追尾する装置の上に、二上(ふたがみ)さんからいただいた小型の望遠鏡とビデオカメラをセットし、望遠鏡ののぞき口にはさらに一眼レフのカメラを装着します。

  この時代はデジタルカメラといったものはなく、隔世の感があります。望遠鏡のレンズの先には太陽の強い光を弱めるための特別なフィルターを取り付け、欠けた太陽を時間をおきながら撮影します。ですが皆既の始まりと同時にタイミング良くフィルターを取り去らなくてはなりません。

  振り返ってみますと、日食観測のいかに忙しいことか…。時計を確認しメモを取りながら一定時間ごとにカメラのシャッターを切り、ビデオカメラを回し、雰囲気を味わいつつ肉眼で周囲の状況を確かめ、皆既の直前には本影錐と呼ばれる影の帯が猛スピードで地上と空を移動してくるのを確かめます。

  さていよいよ午前11時50分を回ったころから欠け始めた太陽。午後1時を20分程過ぎたときのことでした。

  ついに皆既日食の始まりを告げるダイヤモンドリングのそれはそれは美しい光!周りでどよめきが起こります。

  感激に浸るのもつかの間、それっとばかりにカメラ、ビデオ、肉眼、双眼鏡…。一方では冷静沈着を、一方では感動と興奮を。

  暗く冷え込んだ地上の風景、ねぐらに帰る鳥の群れ。たそがれ時のような山並みのシルエット。黒い太陽の回りには明るい恒星や惑星の輝きがいくつか見えています。双眼鏡で見るコロナの流線の美しさにため息し、すぐそばに立っている現地の子供や兵士にも双眼鏡を貸して見せてあげる。遠くの方で白装束のメキシコの人たちが歌を歌い、踊り、太陽の国での皆既日食の雰囲気は最高潮に!

  黒い太陽とコロナの輝きを目にしたとき、実は、思わずひれ伏したくなったのでした。

  書物や写真などによる予備知識のいかに取るに足らないことか。本当の自然の姿に触れた瞬間、大自然の壮大な営みに畏怖し、宇宙の真っただ中、たまたま地球という星に生まれた自分の小ささを思い、涙が止まりませんでした。二上さん、本当にありがとう!
(盛岡天文同好会会員)

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