2010年 4月 20日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉94 及川彩子 ワインは食卓の友

     
   
     
  イタリアでは、どの家庭でも、毎日の食卓に、カンパリなどの食前酒からワインや食後の甘いリキュール酒など、大小のグラスが並びます。最後のエスプレッソコーヒーには、ブドウの皮から造ったグラッパという強い酒を1滴2滴注いで締めくくります。

  アジアゴの友人たちをわが家に招く寿司(すし)パーティーの時も、その手順は変わりません。未成年者にはもちろんジュース類ですが、少量のワインに砂糖を入れ、水で薄めて飲ませる親も少なくなく、宗教的にも「キリストの血」と言われるワインには寛大です。

  イタリア人が仕事帰りに立ち寄るのが、エノテカと呼ばれる居酒屋〔写真〕。カウンターで気軽に立ち飲みする喫茶風の店で、家族が待つ夕食前に軽めの食前酒、あるいは食後の酒を、ナッツやサラミ程度のつまみで楽しむのです。家族連れのために、コーヒーやケーキ類などを出す店も少なくありません。

  イタリアに来て十数年、酔っ払いや、飲んで騒ぐ光景に出会ったことはありません。家族で囲む食事を何より優先するこの国で、特にワインは食事とともにあるのです。

  ワインが高価だった中世の時代に、貧しい人々の飢えと疲れを癒やしたのが、家庭でも醸造できるホップの少ない薄いビールでした。18世紀のベネチアの消費量は、1人平均年間1千gと言われます。

  今や、フルーティーなワインは魚や卵料理。深い味わいのあるワインには肉やグリル、キノコ料理。辛口にはチーズ料理というように、ワインと料理の組み合わせも豊富です。

  「食卓の楽しみは、出来事や場所、生活を共にする人々の多様な状況から生まれた感情である」と言ったのは、19世紀のフランスの美食評論家でした。

  シンポジウムの語源は、ギリシャ語で「酒を飲み交わす」こと。本当の「美食」とは癒やしと陽気な酒本来の役割を存分に発揮させた「食卓」にあるようです。

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