2010年 4月 22日 (木)

       

■ 〈保阪嘉内の短歌〉146 望月善次 文字金にいろけを

 文字金にいろけを見すとしかけたる菊
  江の羽織しなやかに落つ。
 
  〔現代語訳〕「文字金(ぶんじきん)」の金貨を見て、相手の色情に自分の方から積極的に動いた菊江の羽織が、しなやかに落ちて(何とも言えぬ風情なのです)

  〔評釈〕「都市居住者」九首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の六首目。「舞台音痴」の身は、相も変わらぬ手探り状態が続く。「文字金(ぶんじきん)」は、は「江戸時代鋳造の『文』の字の極印がある金貨」のことで「文金(ぶんきん)」とも言う。江戸幕府が通用金銀の不足を補うため鋳造した「元文金銀(げんぶんきんぎん)」や「文政金銀(ぶんせいきんぎん)」が知られている〔『広辞苑』〕。「いろけ(色気)」は、「色」のうちの「愛情。愛情の対象たる人」たる「色情。欲情。情事」に由来し「異性に対する関心・欲求。性的感情。」となる〔『広辞苑』〕。おそらくは、女優か、その役柄を示す「菊江」を特定できないところが「素人の悲しさ」なのだが、その「羽織」が「しなやかに」落ちる様子が観客としてはタマラナイことは十分に共感できる。菊江はおそらく「敵役」なのだろうが、「敵役によって引き立つ舞台」に着目できる成熟した話者がいるのである。
     (盛岡大学学長)

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