2010年 5月 25日 (火)       

■ 〈保坂嘉内の短歌〉158 望月善治 辻村の草花みせの

 辻村の草花みせのベランダに 露にしっとり シネラリヤあり。
  
  〔現代語訳〕あの辻村(が出している)草花の店のベランダに露にしっとりと濡れてシネラリヤ(サイネリア)がありました。

  〔評釈〕「東京夕景集」十一首〔「東京雑信」、『アザリア』六号(大正七年六月二十六日)〕中の九首目。「辻村」は、一応、店の名前とした。評者などで思い浮かぶのは、明治四十年代に西洋の草花などを手がけた辻村常助・伊助兄弟の「辻村農園」などであるが、いずれにしても作品の範囲でそれを特定するのは難しい。シネラリヤ(Cineraria)は、キク科の鑑賞用植物で、多くの花屋などでは「サイネリア」が一般的。フキザクラ、フキギクの名前もあり、「フキ」の部分には「富貴」の漢字があてられている。インターネットの範囲でも多様な色の花がある。嘉内が見た花は単一のものだったのであろうか、それとも数種類のものを見たのであろうか。作品の範囲ではそれほどたくさんのものがあったのではないように思われるが…。一首全体は、観察的・客観的系譜に属する作品となろうが、純粋な「客観的描写」などあり得ない。その背後には、失意の思いを深く秘めた作者がいるのである。
  (盛岡大学学長)


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