2010年 6月 1日 (火)       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉97 及川彩子 ロウソク細工の職人

     
   
     
  夏のバカンスを前に、私たち家族は、毎年のようにガルダ湖散策に出掛けます。ここアジアゴから西へ車で2時間、オリーブやブドウ棚の丘に囲まれた風光明媚(び)な湖畔にはヨットハーバー、温泉施設、ローマ時代の別荘遺跡など名所も多く、年中、国内外からの観光客でにぎわっています。

  娘たちの目的は、湖畔の町バルドリーノの手作りロウソク店。数年前、その見事な職人芸に魅せられて以来、訪れるたびに1個ずつ購入し、コレクションしているのです。

  なじみになった職人のアンナさん〔写真〕は、溶かした何色もの蝋(ろう)を塗り重ねて塊にし、それを彫刻のように器用に削り、あっという間にエレガントな形に仕上げていくのです。

  イタリアの古い街を歩いていると、窓の傍や外壁に並ぶ古い燭(しょく)台を見かけることがよくあります。昔の街燈だったのでしょう。中世の時代から、ロウソクは、ミツバチの巣を加熱して圧縮した上等なものから、松の樹脂や動物の脂で作るものまであります。

  日没、教会の消灯の鐘が鳴ると、人々は暖炉の火の始末をし、ロウソクを手に寝室へ。高価だったロウソクは、長時間ともすものではなく、主に夜の移動に使われたと言われます。

  今も、イタリアのアパートは、夜、入り口のスイッチを押すと、パッと全館の廊下の照明が付き、数分後、部屋に付いたころにパッと自動的に消えるシステムになっています。この時間仕掛けのスイッチは、ロウソク時代の習慣の名残なのです。

  夕闇が迫り、薄暗くなっても、部屋の明かりを付けずに平気でいる近所の家々。蛍光灯を嫌うイタリア人の習慣もありますが、食後、暗い部屋に間接照明やロウソクをともし、カードなどに興じている光景は、むしろ暗闇を楽しんでいるかのようです。

  燃やすのが惜しいほどに、鮮やかなバルドリーノのロウソク。わが家でも飾っておかず、火をともしてみようと思います。

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