盛岡タイムス Web News 2010年 11月 3日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉201 伊藤幸子 モチベーション

 モチベーションなどとい はずにやる気と言へ愛想 よろしき草食男子
後藤美子
 
  「たつた五度気温ひくければさやさやと皮膚がよろこぶ札幌二十七度」とも詠まれる作者は、札幌市在住のもと高校教諭。「千人針国防婦人会外食券衣料切符預金封鎖傷み呼ぶ死語」の作もある。「千人針」は、先月の岩手芸術祭短歌大会でも詠まれていたが、言葉の持つ固定観念が古さ暗さにつながり、パターン化して、今では死語になりつつあるようだ。

  「モチベーション」の語を頻繁に聞くようになったのは、スポーツ番組中継が始めだった。大相撲解説の舞の海さんが、「こんな風にモチベーションをあげていくんですね」などと言われるのを聞き、思わずカタカナ語辞典を引いてみたことだった。

  そこには〈動機を与えること・動機づけ・刺激〉とあり、モチベーターとして〈動機づけをする人・人にやる気を起こさせることを仕事としている人〉と出ている。まさに「やる気」の一語でいいではないか。私は大拍手をして大いに笑った。よく児童教育の講演などでは「やる気のある子に育てよう」のスローガンが掲げられた。もちろん「草食男子」などの語の生まれる前である。

  言語の嵐といってよいほどに、他国語、新語造語の類が押し寄せる。夏の参議院選挙の折には、ある新党党首が「アジェンダ!」と絶叫する姿が見られた。またある著名人は「岩手はポテンシャルが高い」と言われ、一瞬何が高いのか理解に苦しんだことだった。それほどまでに他国語に変換発言する方が楽なのだろうか。

  先ごろ、話題のベストセラー姜尚中(カンサンジュン)さんの「母|オモニ」を読んだ。NHKの「新日曜美術館」の司会者としてもおなじみだが、父祖の地韓国の原風景を背景に、熊本の地でさまざまな差別の障壁を越えて生きゆく姿が感動的だ。

  昭和25年生まれで、時代の風を共有できて幾度も涙した。一巻に綴られる言語が美しい。会話は、ほとんど熊本弁で韓国語もまじる。そこには真の「ことだま」と言える原始の響き、力がある。ひとたび体外に発する言葉には、その者のもつ魂がこもると実感させられる。そして「うすぎぬのとばりふうはり下りて来て音なく木々を濡らしゆく雨」の後藤作品の香ぐわしさ。期せずして日本の両端の風土に、降り注ぐうすぎぬの雨のとばりが見えるようだ。

(八幡平市、歌人)

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