盛岡タイムス Web News 2011年 1月 12日 (水)

       

■ 〈口ずさむとき〉211 伊藤幸子 「雪、凍ばれ」

 降りつづく雪に道幅狭く なり車が人の後に従ふ 
  松田一夫

  なんという大雪の年明けだったことか。大みそかには朝から晩まで、片時も休まず降り続けた。見る間に降りつもり、車庫に行くさえも腰まで雪をこがなければならない。国道筋でも雪の重みで立木の枝が裂け倒木が多数みられた。

  松田一夫さん、大正元年北海道留萌市生まれ。昭和22年より旭川市旭町にてコマヤ薬局を営む。こんなに大雪でしばれる時期には、明るい南国の風土に遊びたいと思うのだが、やっぱり実感の伴った北国の作品に惹かれ読みつぐ。

  岩手山焼走りに近い私の地域では、たちまち1b余の雪壁ができて、道幅がせばまる。「車が人の後に従う」光景、わだちに乗りきれない軽自動車はよくハンドルをとられる。

  「観衆の去りたる川原風寒く踏まれし雪のてかてか光る」「雪の降り凍ばれてすべる舗道往き身の重心の移動が不安」この不安感、バランスをとって歩く絶妙の運動神経が必要だ。

  「朝食後にんにくエキス服(の)む慣ひ四十余年ますます元気」「香料のホワイトローズ身につけて若やぐ心昔も今も」なんとも楽しい健康法。さすが薬局経営者、「眼覚しを止めてまた寝る愉(たの)しさは卒寿の今も延々つづく」というあたり、まるで若者の生活パターンだ。めざまし時計を止めてまた寝る喜びとは、老いると眠りが浅くなるなんて誰のこと?と笑える。

  20代はじめごろから短歌を作り始め、白秋門での作歌活動。長い歌歴、歌集4冊刊行。「最低気温四十一度の朱鞠内(しゅまりない)ダムの工事に人あまた死す」「ダム竣りて水奪はれし山里は蕎麦をつくりて日本一なり」私はこれらの作品から、日本大地図で朱鞠内の土地をさがした。以前、井上ひさし氏の「四千万歩の男」を読んだ時も地図を片手に辿ったことを思い出した。如何にも寒そうな天塩山地の奥深く、朱鞠内川、朱鞠内湖がある。日本一のそばも自生しそうだ。

  「岬(さき)山の岩場に一羽棲む鷲か遠くはゆかずわが頭上舞ふ」「眼のみえぬ老妻拾ふ辺りまで落花生撒く二人の追儺(ついな)」孤高の鷲も節分の妻も常に作者と共にある。「朝まだき外の新聞凍みてゐつ鋼(はがね)のごとく折れば音する」この感性の鋭さがあればこそ、「雪、凍ばれ交互につづく北に住み九十六歳歌を楽しむ」と詠まれる生の楽しさ、尊さにつくづく感じ入ることである。
(八幡平市、歌人)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします