盛岡タイムス Web News 2011年 7月 2日 (土)

       

■ 〈賢治の置土産〜七つ森から溶岩流まで〉218 岡澤敏男 水仙とあせびの開花

 ■水仙とあせびの開花

  賢治はずいぶん象が好きだったらしい。童話「オツベルと象」のように主役ではないが、「月夜のけだもの」や「けだもの運動会」にも登場し、「黄色いトマト」ではなんと「小さな家ほどある白い四角の箱」としてサーカス団の象を描いているのです。

  象を胴体の大きな「白い四角の箱」と形容してしまうほどの賢治だから、丘の姿に「象の頭」をイメージしてもおかしくはないでしょう。

  童話「水仙月の四日」、「若い木霊」、「光の素足」の舞台には「象の頭のかたちした丘」が出現するのです。これらのなかで「ひとりの子供が、赤い毛布(けっと)にくるまつて、しきりにカリメラのことを考へながら大きな象の頭のかたちした、雪丘の裾を、せかせかうちの方へ急いで居りました」とあるのは「水仙月の四日」です。

  いったい「水仙月の四日」とはいつのことを指すのか。

  暦をみると「水仙月」という月はもちろんありません。これは賢治が創造した季節造語です。ウツギが咲く季節にちなむ「卯月」のように水仙の咲く月という意味をもたせたものでしょう。

  私たちの地方では水仙の開花はおおむね4月なので、「水仙月の四日」を4月4日と抵抗なく理解されますが、水仙は俳句では冬(1月)の季語で、関西では1、2月に咲くことから「水仙月」を4月よりもっと寒い季節のことと解釈されたりします。

  そこで賢治は水仙と同じ頃に咲きだす植物「あぜび」をセットしています。童話に挿入した次の歌詞をご覧ください。
 
  カシオピィア、
  もう水仙が咲き出すぞ
  おまへのガラスの水車
  きつきとまはせ。
 
  アンドロメダ、
  あぜびの花がもう咲くぞ、
  おまへのランプのアルコホル、
  しゅうしゅと噴かせ。
 
  秋から冬にかけて北天を彩る母娘の星座、カシオピィア(カシオペア)もアンドロメダも3月末には地平の近くに後退しますが、賢治は「水仙月」の到来をうながすように急き立てているのです。カシオペア座が「ほぼ北極星を中心にして一日一回転」することと、それが「天の川中にあることから水車」に比喩していると「新宮沢賢治語彙辞典」にある。水仙の開花が間近いので「水車」の回転を督促しているのです。また「あぜび」(あせび・馬酔木)を英語で「 Jpaiese Andromeda 」とあることから「あぜび」とアンドロメダ星座を重ねた表現とみられている。「あせび」の花が白色のベル状でアルコールランプがイメージされ、アンドロメダ座のアンドロメダ星雲(アンドロメダ銀河M31)の光芒もまたランプの炎と見立てて季節の進行をうながす歌詞なのです。このように四月に咲く「水仙」と「あせび」を重複させることによって、この作品の舞台が「四月四日」に起こった出来事だと暗示しているのです。

  そう言えば、毎朝に行う私の散歩道のほとりで出会う水仙とあせびが、今年も4月にちゃんと開花しておりました。

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