盛岡タイムス Web News 2011年 7月 6日 (水)

       

■ 〈不屈の意志〉県歯科医師会・菊月圭吾常務理事に聞く 困難伴った遺体の身元確認

     
  歯科所見による身元確認について語る菊月常務  
 
歯科所見による身元確認について語る菊月常務
 
  膨大な数の遺体。その身元を確認するための手段の一つに歯科所見がある。県内歯科医も今回、被災地で、大きな困難を伴う長くつらい作業を強いられた。一体ごとに歯形や治療痕などを確認して歯科所見を作製する。そのデータをパソコンに入力し、医療機関などから集めたカルテデータと照合して絞り込む。盛岡市の菊月圭吾歯科医師に県歯科医師会が、今回どう動いたのか聞いた。菊月氏は同会常務理事。実際に被災地での身元確認作業に奔走した。作業には会が毎年行ってきた大規模災害研修が生きたという。その半面、被災した医療機関がカルテを流失している事例が多かった。非常時の情報の保存や伝達の課題が浮き彫りになったという。(鎌田大介)

  -震災後の状況は。

  菊月 11日の被災後は情報が全く入らなかった。岩手県歯科医師会箱崎会長は東京で会議に参加していた。東京ではテレビが映り、大変な状況だと分かった会長から、夜に事務局長に何とか電話がつながり、災害対策本部を立ち上げるよう指示があった。
  自分は岩手県の身元確認の責任者だったが、11日は全く動けなかった。診療室を閉めてスタッフを帰し、高齢の親族の無事を確認してから自宅に帰った。
  翌日未明に県警本部に行き、鑑識課の次長、係長と会い、今後の対応を打ち合わせた。歯科医師会と県警は覚書を交わしており、事があったら出動することになっている。県警の緊急電話を使い、朝6時に東京の箱崎会長と連絡を取り、覚書に基づき、身元確認作業に出動することが決定された。会長からは8時に歯科医師会館で第1回災害対策本部会を開くよう命令があり、役員や警察歯科医への連絡を開始した。
  県警の緊急電話を使っても、被災地の沿岸と一関とは誰にも連絡がつかなかったが、内陸部の被害は少ないのが分かった。朝8時に1回目の災害対策本部会議を開き、身元確認作業に8人を出動させることを決めた。

  -歯科医師会の身元確認の訓練は飛行機事故や列車事故を想定していたのでは。

  菊月 07年には宮城県沖地震を想定した訓練を行っていた。8時という早い時間にもかかわらず、役員・警察歯科医に集まるよう連絡してかなり集まってくれたのは、訓練をしていて、こういうとき歯科医師が動かねばならないという意識を持っていたからではないか。災害時の初期活動に歯科医師が必要だという意識を強く持っていたたのが一番大きかったと思う。
  |実際に遺体を見たのは初めてだった歯科医も多かったのでは。
  菊月 岩手県には、各所轄に日常の業務を行う数人ずつの警察歯科医がいる。その先生方には、残念ながら盛岡以外、全く連絡が付かなかった。岩手医大法医学の出羽教授には、津波被害の場合、当初の1・2週間は歯科医ならそれほど経験がなくても大丈夫と指導を受けていた。遺体があまりにひどい状態ではないので、歯科医なら何とかなると。
  盛岡周辺の先生方には、事務局員が自転車などで走り回り何とか連絡が付いたので、主に盛岡の歯科医に出動を要請した。経験がさほどなくても、日常と同じように見ることができた。2日、3日目になると、死後硬直が出てかなり苦労した。

  -身元確認はとても重要な仕事だが、困難が伴ったのでは。

  菊月 最初は歯科所見を取り続けるだけだった。12日、宮古ではすでに40体が搬送されていた。顔や所持品だけで身元が分かる場合があり、すぐ身元が分かった場合は歯科所見は取らなかったが、その時点で分からない場合は全部採取するようにした。現在まで1日も休むことなく約2700人の歯科所見のデータを取った。あとは生前情報をいかに集めるかである。津波で全壊した歯科医院が約40軒あり、カルテが流出し、生前情報が集まりにくい。
  顔貌や所持品、DNA、指紋、歯科所見の四つを総合的に判断して、県警が身元を特定する。歯科所見による身元確認は、生前のカルテ情報がない限りはほとんど無力。陸前高田、大槌、山田などでは、歯科医院がほとんど全壊・流失し、カルテが残っているのはごくわずかだった。カルテデータを何とか復元したり、がれきの中から探し出したり、入手した行方不明者情報を見ながらカルテを確認するなど、生前情報をを集める努力をして身元確認する。生前情報がなければお手上げになる。
  採取した歯科所見用紙もコピーを取って持ち帰る場合が多いが、停電でコピーができないので3日後には複写式に作り直した。停電のうえ、トイレ事情も駄目だった。

  -被災現場に女性の歯科医も出向いたのか。

  菊月 (会員の歯科医師に)身元確認作業に協力してくれるか希望を取ったところ、女性の先生からもかなり希望があったが、すべて断った。申し訳なかったがトイレの都合が全くつかなかった場所があったため、女性を出すわけにいかなかった。だから歯科衛生士にも全く要請しなかった。
  訓練では歯科医師・県警だけでなく、歯科衛生士の活用も想定していた。今回はそれは絵に描いた餅だと分かった。被災地に女性を立たせるのは難しかった。女性の先生方には、次の段階の口腔ケアや歯科医療をお願いしたいと申し上げた。当初はただ一人だけ、法歯学専門の女性が行っただけだ。

  -教訓は。

  菊月 カルテ情報・レントゲン等をデータとして保存しておかねばならないことを痛切に感じている。津波だけでなく、火災が起きるとパソコンは全部だめになる。医院の財産でもあるカルテの保存方法を本気で考えねばならないと思っている。
  また電話も通じない中での通信手段が必要。県歯科医師会、地区歯科医師会、外部とのホットラインが必要だと思った。


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