盛岡タイムス Web News 2012年4月 12日 (木)

       

■ 〈書評〉森義真 「啄木 新しき明日の考察」(池田功著)

     
  池田功著『啄木 新しき明日の考察』(新日本出版社、2012年3月20日)  
  池田功著『啄木 新しき明日の考察』(新日本出版社、2012年3月20日)  
  石川啄木没後100年の今年、意義深い啄木関係書の出版が相次いでいる。時系列に挙げると、近藤典彦編『復元 啄木新歌集』(桜出版)、河野有時著『石川啄木』(笠間書院)、池田功著『啄木 新しき明日の考察』(新日本出版社)、碓田のぼる著『石川啄木 風景と言葉』(光陽出版社)、長浜功著『啄木を支えた北の大地 北海道の三五六日』(社会評論社)である。一つ一つ読後感を交えて紹介したいが、ここでは表題の本のみを取り上げる。

  昨年の本紙(5月1日付)において、同じ著者による『啄木日記を読む』の書評を掲載させていただいた。その際の著者紹介を繰り返す。著者の池田功氏は、明治大学政治経済学部教授であり、国際啄木学会の副会長。卒業論文、修士論文、そして博士論文もすべて「石川啄木」をテーマとしている極めてまれな文学博士である。これまでに、『石川啄木 国際性への視座』や『石川啄木 その散文と思想』などの著書があるほか、国際啄木学会編『石川啄木事典』の編者の一人として、重要な部分を執筆された。

  前書同様この本も、誰にでもわかりやすいように優しい語り口でつづられている。

  特に、比較的難しいと思われている啄木の評論を、啄木の主張点を明らかにしながら、具体的に解き明かしてくれているのがこの本の特徴でもある。「はじめに」においては、昨年の東日本大震災に関連した現代性を示すことから書き起こし、「未曽有の出来事で日本は閉塞状況に陥っています。もし啄木が生きていたら、この時代閉塞の状況に対してどのようなことを考え表現したでしょうか」と問いかけ、「まさに『新しき明日の考察』をしなければならぬ」、「『新しき明日』を見つめ、それに向かって考察しなければならない」と啄木が語っただろうという答えを出している。

  こうした「明日の考察」というメッセージを盛り込んだ評論「時代閉塞の現状」を分析するために、〈啄木の成長の秘密〉を反転と反復のイメージを使って解き明かす。その解明にあたり、各章にキーワードを設けて論じる内容になっている。

  すなわち、一章「労働と文学との葛藤」では「天職観の反転」とし、文学者から普通の生活者への反転を評論「弓町より―食ふべき詩」から読み取る。二章『一握の砂』では「『海』のイメージ」で、詩集『あこがれ』に込められた「海の恐ろしさ」から実際の海を見ての親しみへの反転を示す。三章「日韓併合に抗する歌」では「亡国の認識」として、日本人の多くが祝賀ムードに包まれて提灯行列までやった明治43年8月の日韓併合に際して啄木が詠んだ歌「地図の上朝鮮国にくろぐろと墨をぬりつつ秋風を聴く」の評価とともに敵将やテロリスト、亡国となった国家への憐憫の情を示す。核心となる四章「時代閉塞の現状」では「社会進化論の受容と批判」で、当時の一大流行思想に基づき正岡子規・根岸短歌会の「保守」よりも与謝野鉄幹・新詩社の「進歩」によった啄木の選択と、「適者生存」への批判と「相互扶助」への賛同を説く。五章「辛亥革命という希望」では辛亥革命への強い関心と「啄木の中国観」を展開している。

  結論としての〈啄木の成長の秘密〉は、「多くのイメージや言葉やテーマや場面などが、短歌、詩、小説や評論というジャンルを超えて反復されている」とした上で、「一首の短歌の創作の背後に、詩や随筆や小説の中の言葉やイメージを繰り返し再生産し、反復させながら高みに上り詰めていく」と説いた。

  「むずかしいことをやさしく」というこの本につき、ぜひ、ご一読をおすすめする。
  (近代文学研究家、盛岡市在住)

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