盛岡タイムス Web News 2012年 5月 10日 (木)

       

■ 〈おとうさん、絵本です〉382 岩橋淳 ねこくん、わが家をめざす

     
   
     
  陽光あふれる海辺の南の町、おばあさんとふたり、きままに、のんびりと暮らしていた一匹の猫。その生活は、おばあさんの死によって一変します。

  いっさいの家財は整理され、遠い北の町に運ばれます。猫も、同列の扱いをもって、思い出に包まれ、住み慣れた町を離れる事に。しかし、移り住んだ町は、かれの安住の地ではありませんでした。…猫という動物は、本来、「家に居付く」と言われたもの。かれにしてみれば、「新しい家」の居心地が良くなかったとは言え、出奔、不案内な町をさすらい歩くようになったのは、よくせきのことと思われます。ここで、かれの選択肢は、ひとつ。南を目指して、歩くことでした。

  「すてきな三にんぐみ」など数々の翻訳を手がけた児童文学者・今江祥智さんによるスタイリッシュな訳文が、孤独な猫の旅路を、明るく、カラリと描きます。映画のような場面展開に心情描写があいまって、深い味わいが醸し出されます。裏表紙にはかれがたどった道筋が示されていて、本作は、フランス北部・ルーアンという町から、フランスを縦断して地中海沿岸のサン・トロペに至る1000`近い行程を描いたものと分かります。

  思い出を追って、長い旅を続けるかれを待つものは、なにか。一匹の猫と、風を感じながらの旅。絵本ならではの楽しみです。タイトル文字は、絵本作家の長谷川義史さん。

  【今週の絵本】『ねこくん、わが家をめざす』K・バンクス/作、G・ハレンスレーベン/絵、いまえよしとも/訳、BL出版/刊、1575円(2004年)

 

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